2011年5月6 の記事一覧

続・金子國義さんの表紙

 金子さんの絵は、女性誌の表紙としては、かなり異色で刺激的だった。イチゴを手にした裸の女、少年ボクサー —- 絵とはいえ、ヌードも男の子も、この雑誌には初登場だった。
 その表紙に包まれた誌面も負けずに、挑戦的だった。女性の身体と病気、更年期、性的欲求、結婚、離婚、嫁姑の確執などに、遠慮なく大胆に向かっていった。読者の体験をどんどん取り入れた。セックスの記事など「少し行き過ぎじゃないか」と大新聞のエライ方がいい、しかし、その方が、実は、愛読者であることがわかり、大笑いしたりした。
 女性誌を男性が読みだせば、しめたものである。部数は急上昇し、やがて30万を超えた。「変わったことをやれ」「自分が読みたいと思うものを載せろ」というのが成功の秘訣であると、あらためて知った。
 —- このギャラリーに飾られている金子ワールドの人や動物たちとは、その苦楽と想い出を共有していると思った。いくつもの記憶が、この店で甦ってきた。
 店にはいって、棚にポストカード、手前に金子さんが装丁した新刊書、奥にポスターのように大きなカレンダー。そして、絵。その絵を彩る、独特の赤、ブルー、黒、グリーンたち。そうだ、赤は、たいてい、血のような赤だった。それらが、やはりここでも、薄暗い店内の、ほのかな灯りの下に浮かんでいた。あのころと、少しも変わっていない。私は、私のこころの中を、のぞいているような気がした。

美術倶楽部ひぐらし