morimori

パン西東

 CAFE MILLET

 発売になったばかりの『チルチンびと』別冊38号 —関西・瀬戸内・福岡の家づくり— を読んでいたら、「石窯とパンと人とをつなぐ CAFE MILLET」という記事に出会った。

 MILLETとは、雑穀である。隅岡樹里さんが、「石窯のあるカフェがやりたい。自然のエネルギーを使ってパンを焼いてみたい」と思い立って始めた店である。雑穀や地元の野菜たっぷりのコース料理が、楽しめる。また、石窯ワークショップが開かれ、石臼で小麦を挽き、全粒粉のパンを石窯で焼く体験もできる、という。京都市内から鞍馬方面へ、山あいの道を抜けたところに、その店はある。

 私の手もとに、友人がくれた雑誌の切り抜きがある。そこには、ドイツ・ベルリンの「古パン屋」という商売の話が載っている。店頭に並ぶパンのほとんどはオーガニックな全粒粉。値段は市価の半額。すべて、他の店で前日売れ残ったパンを仕入れたもの。全粒粉のパンは、焼いて2、3日が食べごろなのだ、とその記事にはあった。

 「神保町は古本の街だから、古パンも似合うかと思ってさ」と、切り抜きをくれた友人は言った。


続・ハチメイワク

アザミ

 花の盛り。ミツバチの集めてくる蜜は増える。産卵する。コドモも増える。巣箱のなかは、いっぱいになる。
「それやこれやで、巣わかれの準備を始めるんですね。そうして、ついには街に出かけてきたりするわけです。ですから、いっぱい貯まった蜜を取ってやるとか、管理をキチンとしてやれば、いいんですよ。ハチも管理する人の性格を反映しましてね、ふだんから、やさしくしてやると、絶対、刺しませんね。車の往来の激しいところのハチは、落ち着きがありませんしね」
 先代から、もう何十年も、養蜂業をつづけているという。 小さいころから、父親の手伝いで蜜を取っていたという。
 そうだ。ハチと話ができるというこの人に、騒動のとき、ハチはなんと言っていたか、きいてみよう。すると、「ハチは、自分たちの種族の繁栄のために、ああいう行動に出たんで、人間が大騒ぎするのはハチメイワクです、 と言っておりましたよ」と答えてくれた。 


ハチメイワク

ハチメイワク

 

「私は、ハチと話ができるんです」 と、その人は言った。養蜂家である。そういえば今年は、あまり聞かなかったけれど、ホラ、よく、何万匹のハチがドコドコに出現したとか、あるでしょう。養蜂家は、そういうときに、始末に出かけるのだ。
 「パトカーが、迎えにくるんです。パトカーに乗せられると、なにか、悪いことをしたみたいでカッコワルイけど、まあ、しょうがない。早く行ってやらないと、ハチがかわいそうですからね」
 さて、現場では、野次馬も報道陣も遠巻きにしている。でも、ミツバチはいじめなければ、刺さない。体にとまっても、あれは、ハネを休めているだけですから。ただ、いったん怒って刺すときは、決死の覚悟で刺しますからね。刺せば、自分はケンを置いて死ぬんですから。
 刺されてしまったら、血行を止めることです。刺された箇所をギューッとつまむ。そして、つまみながら、冷やすんです。こうして、体に毒を回らせないように、するのが、一番。 —- そんな話をしてくれた。      

< この項つづく > 


続・ああ、熱戦

暑いグラウンドに納得を追い求める男

 アッチッチ。 選手も、観客も、応援団も、みんなアッチッチだ。しかしまあ、いざとなったら、日陰に避難できる。どうにもならないのが、審判員だ。以前、その一人に、話をうかがったことがある。

 「そりゃ、くたびれますね。肉体的疲労より、精神的疲れが、大きいです。首筋なんか、コチコチですよ。でも、 これをやることによって、ずいぶん、私という人間がつくられた気がするんですよ」と、彼は言った。

 「審判というのは、誰が見てもアウトというのを、アウトというだけであってね、審判がアウトにしてはいけないわけですよ。でも、きわどいボールがくれば、打者はボールと思い、投手はストライクと思う。それを、ぼくは、どちらかに言わなければいけない。観客にも、両軍の選手にも、つまり、利害の反する人たちみんなに、そして、私自身にも、納得できる判定をしなければいけないんですね」 納得とは何か。

 暑いグラウンドに、納得を追い求める男がいる、ということに感動した。

 


ああ、熱戦

高校野球 東・東大会

 

「ウー、 アッチッチ、アッチッチ — 昔、 郷ひろみが 、こんな歌をうたっていたなあ 」 といいながら、うしろの席にオトコが座った。 東京、快晴、神宮球場、高校野球の東・東京大会。 気温は40度に近いだろう。上から下から左から右からの熱気。 私の連想するのは、郷ひろみでなく、天津甘栗だ。
 「カマのなかに砂があり、その砂のなかにザラメと栗をいれ、暖めると、ザラメが匂いを出す。そして、栗に色とツヤがつく。女の化粧と同じですよ」 と、銀座の甘栗屋さんから、聞いたことがある。
 「初めは、火をカーッといれる。そすと、栗がぶわーっとふくらむ。でも、破裂されては困る。その寸前で、火を少しずつ落としていく。そすと、なかがしまってきて、皮がうまく剥けるようになるわけ。 — ええ、とにか く、焼く匂いが肝腎でね、お客さんがこないと、じゃちょっと ゴマを焚くかと、匂いを流すと、人は集まってくるんだね」
 グラウンドでは、栗のような頭の選手たちが、走り回っている。 アッチッチ。     

(この項つづく)

 


オーイ 女性記者 !

 このブログに、小笠原の話を書くのは、三回目になる。いつも、話の主役は、小笠原野生生物研究会の安井隆弥先生とその著書『小笠原の植物』である。さて、今回 —- 。

 世界遺産が話題になってから、安井先生への取材も増えた。その取材するひとたちにとって、『小笠原の植物』は、とても重宝なガイドブックであるようだ。

 先日も、某大新聞の女性記者が、先生のところに取材にきた。そして、話が終った後、事務所で、この本を求めた。しかし、あいにく彼女は、持ち合わせが不足していて、お金はあとでお返しする、ということで帰った。「それっきりですよ。こういうことは、とても珍しい」と、先生は新種を発見したように、ユカイそうに笑った。

 オーイ、某大新聞の女性記者よ。もし、これを読んで、ア、ワタシと思ったら、すぐに、本代を払ってあげてくださいな。

 

小笠原の植物 フィールドガイド 1

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小笠原の植物 フィールドガイド 2

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続・タネ袋の絵師 ~ 冷えた Suica ~

 

園芸店の店先に並ぶ、タネ袋の絵を描いてきた゛タネ袋の絵師゛の話のつづきである。

 

「好きじゃなければできない仕事ですよ」 
と、その人は言った。 
「ぼくは、葉脈の一つひとつを描くのが楽しみだった。もっと突っ込んで、もっとこまかく、というところへいくのが面白かった。水彩で描くのだけれど、緑を描くのには、苦労した。浅い緑、深い緑 — 緑は光によって、色が変わる。花はそう難しくないけど、野菜モノは、だから難しかった。ぼくの絵は、写真のようであって、写真でない。うるおいをつけくわえたかった。うるおいと写実 —絵と写真の両方のいいところを、表現したかった。そうだ。なつかしさも、つけくわえたかったんです」

そう、絵師は語った。

 

ガーデニングの盛んな季節。そんなとき、昔、タネの袋にも、
情熱を傾けた人がいたことを、書いておきたかった。

もうひとつ。前回、スイカ と Suicaを間違えた一件を書いた。
それにオヒレがつき、私が Suica を冷蔵庫で冷やした
という噂になっていた。まだ、そんなにボケちゃいませんよ、
ということも、書いておきたかった。

 


タネ袋の絵師

 

園芸店の店先に、イロイロな植物のタネの袋が、並んでいる。

いまは、その袋を飾るのは、花や実の写真である。

昔は絵で、タネ袋の絵師、という人がいた。

 

「ぼくは絵描きじゃない。職人です」と、その人は言った。

「タネを買ってもらうための袋ですからね。人目をひくように、キレイに、構図もおもしろく。そう、構図が勝負ですよ。ダイコンも一本では淋しいから、三本並べてみたり —- 買う方が、このタネを買って蒔くと、こういうものができる、という、その夢が大切なんですね。描くのが難しいのは、スイカでしたね。あのシマの模様がどうもうまくいかなくて、いくつもいくつもスイカを買って、描いたものですよ」

 

暑い日。こんな話を思い出していたら、スイカが食べたくなった。

一緒に歩いていた友人に 「どこかで、スイカを」 と言ったら 

「チャージ !?」 と答えた。

いまや、スイカより Suica のほうが有名なんだな。

 

 

<この項つづく >

 

 


フィールドワーク

 この手帳のことは、堀江敏幸氏のエッセイ『正弦曲線』(女性誌連載のときから愛読していました)で、知った。堀江さんは、使いごこちのいいメモ帳を探していた。そんなとき、住宅街で測量をしているおじさんが、書き込んでいる手帳を見て、思い切って声をかける。 

 — 会社の事務所でまとめて仕入れてるもんだから、自分で買ったことはないけどねえ、とおじさんは言い、やちょう、って言うんだよ、ふつうは、と説明を加えた。野っぱらの野に、帳面の帳で、野帳。はあ野帳ですか、と私はその言葉の響きにうっとりしてしまった。(『正弦曲線』から)

 出版社に書店営業という仕事がある。書店をまわっては、自社の出版物の売れ行きに気を配り、注文をとり、新しい企画のPRをし、他社の情報を聞き — とまあ、出版社と書店の接点を調査に行くのである。

 ある社の営業担当のS君に、この野帳、つまりフィールドノートを、使いやすいよと、進呈した。「営業の仕事を、フィールドワークにたとえられたのは、初めてですよ。でも、わるくないなあ」と、彼は、笑った。

LEVEL BOOK


黒の訪問者

 2ヵ月ほど前から、4階にある私の家のベランダに、アイツは訪ねてくるようになった。アイツは、豊満な体つきで、黒い服に身を固めた中年女、という風情だった。なんとなくユカイでなく、追い払うと、さも面倒くさそうに帰っていく。

 『カラスはどれほど賢いか』(唐沢孝一著・中公新書)によると、カラスくらい好奇心旺盛、大胆、細心、そして、積極的に生きる鳥はいないという。私は、この本の著者である都市鳥の研究者・唐沢さんにインタビューしたことがある。

 いまでも、記憶しているのは、カラス撃退法には、一升ビンをサカサマに立てると、ある程度の効果があるという話だ。ビンを普通に立てて並べても、ダメなのだ。カラスは理解不能、意味不明の物体を必要以上に警戒する、というのである。で、そんな話をブログに載せるために、アイツを撮影しようとしたら、逃げて、写真はボケた。そして、それっきり現れなくなった。

 気になって、清掃の係りの人に尋ねたら、「ああ、足をひきずってヨタヨタしたヤツを見たなあ」といった。

 こういう一生が、都会のカラスの宿命なのだろうか。私は、アイツを好きにはなれなかったが、せめてこんなボケた後姿でなく、カッコイイ1枚を撮ってやりたかった、という思いはある。

カラス