タネ袋の絵師

 

園芸店の店先に、イロイロな植物のタネの袋が、並んでいる。

いまは、その袋を飾るのは、花や実の写真である。

昔は絵で、タネ袋の絵師、という人がいた。

 

「ぼくは絵描きじゃない。職人です」と、その人は言った。

「タネを買ってもらうための袋ですからね。人目をひくように、キレイに、構図もおもしろく。そう、構図が勝負ですよ。ダイコンも一本では淋しいから、三本並べてみたり —- 買う方が、このタネを買って蒔くと、こういうものができる、という、その夢が大切なんですね。描くのが難しいのは、スイカでしたね。あのシマの模様がどうもうまくいかなくて、いくつもいくつもスイカを買って、描いたものですよ」

 

暑い日。こんな話を思い出していたら、スイカが食べたくなった。

一緒に歩いていた友人に 「どこかで、スイカを」 と言ったら 

「チャージ !?」 と答えた。

いまや、スイカより Suica のほうが有名なんだな。

 

 

<この項つづく >