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岡崎京子展へ

岡崎京子展

岡崎京子展「戦場のガールズ・ライフ」(世田谷文学館、3月31日まで)に行く。平日の午前中なのに、かなりの人。根強い人気がうかがわれる。たくさんの作品。ところどころに、独特のセリフ。出口に、「ありがとう、みんな。」というメッセージ。

帰り、いつものように、そばやへ寄り、喫茶店に入り、会場で買った、盛りだくさんの本『岡崎京子  戦場のガールズ・ライフ』(平凡社刊)を、うしろから読んでいく。そこに、「もし岡崎京子が事故に遭っていなかったら」という、弟さん(岡崎忠)の文章が、ある。〈岡崎京子の作品には携帯電話もインターネットも出てきません。〉と書き、コミュニケーションの仕方が変化したこの時代に、もし、現役で仕事をしていたら、どのような作品、どのような風を、もたらしていたかと、つづけている。事故からの、19 年という歳月を思う。戦場、というコトバの感覚もずいぶん変わった。

 


「変奇館、その後」公開中

変奇館、その後

あの雑木林の庭のことは、とても一度では書ききれません…… ということで、「変奇館、その後 ―  山口瞳の文化遺産」(山口正介)は、前回につづき、庭の話になる。ところで、そうしてできあがった雑木林を眺めて、山口瞳さんは、なにを思っていたのだろう。こういうエッセイが、ある。
……
何もしないでいる人生がある。また、国事に奔走して、紅葉の花(実はそれが花であるかどうかハッキリとは知らない)やヤマボウシの花の美しさに気がつかないでいる人生がある。そんなことをボンヤリと思っていた。
(『旦那の意見』これだけの庭 ― から)
……
これを読んで、国事に奔走する人の哀れな顔が、何人も頭に浮かんだ。

変奇館、その後」は、コチラからごらんいただけます。

 


想い出の安西水丸さん

安西水丸 a day in the life

3月15日のNHKテレビ『日曜美術館』は、安西水丸さんの特集だった。亡くなって、一年たつ。街を自転車で走る姿から、番組は始まった。ユーミン、嵐山光三郎、南伸坊 …… といった方たちの話が、流れた。
「初めて会ったとき、物静かで、ニヒルで、ダンディだった」
「日常のなにげないものを、ポンと取りだす名人」
「おもしろがることが、得意な人」
「小さな太陽が家のなかにやってきたような作品」
「北青山のマチス」
「全身イラストレーター」
「彼の描いた焼き海苔の絵を見て、よくやったなと思いましたね」
「手品みたいに、いなくなったね。サーっと …… もったいない」
どの声も、あたたかく、やさしかった。見ているうちに、胸のあたりが湿ってくるような気がした。そして、『チルチンびと』の連載の最後の回を、また、読んでみようと思った。

 


「チルチンびと住宅建築賞」授賞式

「チルチンびと住宅建築賞」授賞式

3月12日。風土社で、第3回 2014年度「チルチンびと住宅建築賞」の授賞式が行われた。

まず、審査委員長・泉幸甫氏の挨拶から。……「設計の上手な工務店、そうでない工務店とありますが、全体的には上がってきていて、うまいところは、本当にうまいです。でも、なぜ、工務店の設計が、なかなか上達しないかと考えると、やっぱり個人の名前を出さないから、工務店の中に埋没しているんです。ぼくは、工務店に勤める設計者に光を当てたいと思うんですね。野球だってそうでしょう。新聞に誰がホームランを打ったとか、書いてあるからおもしろいので、巨人と阪神どっち勝った、というだけでは、おもしろくない。個人の名前が出てくると、そこに花が開くんですよ。建築だって、そういうことがあるから、個人の名前を大いに表に出してあげたい。工務店は、それを大事にする。そういう仕組みをぜひつくってもらいたいなと、ぼくは思っているのです……」

優秀賞 渡部要介さん(左)と審査員・藤井章さん

優秀賞 渡部要介さん(左)と審査員・藤井章さん

優秀賞 西浦敬雅さん(左)と審査員・大野正博さん

優秀賞 西浦敬雅さん(左)と審査員・大野正博さん


今回は、優秀作が、家工房/渡辺要介氏と建築工房en/西浦敬雅氏 の2作だった。なお、受賞作品、審査員の講評は、発売中の『チルチンびと』83号に掲載されています。ぜひ、ご覧ください。

 


続・春はキッチンから

続・春はキッチンから


『チルチンびと』83号の特集テーマは「キッチン」。それにちなんで、ビブリオ・バトルをと、集まった6人6冊。

………

Nさん。『味覚旬月』(辰巳芳子著・ちくま文庫)。食の歳事記といえるような愉しい本ですが、なかに「座り台所の知恵  ー   続あえもの」という章がありまして。〈春はもうそこまで来ている。これを読み、忘れていた味に、擂鉢、擂りこぎにとりついて下さる方があれば、うれしい。ただ、あえものは、昔の座り台所が生み出した料理、あい間あい間で座ると疲れない。〉私は、この本で、初めて座り台所という言葉を知ったんですよ。

Eさん。私にとっての台所といえば、おいしいもの好きの、向田邦子さん。『向田邦子  暮しの愉しみ』(向田邦子・和子著・新潮社)。「春は勝手口から」という章で、妹の和子さんは書いています。〈春キャベツの一夜漬け、揉んだ大根とかぶをレモン汁や柚で香りを立て、歯ごたえも楽しかった三分漬け……〉そして〈春はいつも勝手口からやって来る。向田の家の春は、包丁とすり鉢の音、そして土の香りとともに始まった。〉  ここにも、庶民の暮らしがありますよ。

M君。さすがに、この季節、みなさん、爛漫というカンジですね。それに水さすつもりなど、ありませんが、ぼくにとっては、この一冊。いや、この一句。といって『寺山修司全歌集』(寺山修司著・講談社学術文庫)。

冷蔵庫のなかのくらやみ一片の肉冷やしつつ読むトロツキー

これが、ぼくの台所です。

―  いつものような、いい春の宵だった。

………

『チルチンびと』83号  、特集「キッチンで変わる暮らし」は、3月11日発売です。お楽しみに。

 


春はキッチンから

『チルチンびと』83号

『チルチンびと』83号の特集テーマは、「キッチン」。それにちなんで、ビブリオ・バトルを、ということで、集まった、6人6冊。

…………

Uさん。『キッチン』(吉本ばなな著・新潮文庫)。この小説は、〈私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う。〉で始まる。そして最後は、〈夢のキッチン。〉 〈私はいくつもいくつもそれをもつだろう。心の中で、あるいは実際に。あるいは旅先で。ひとりで、大ぜいで、二人きりで、私の生きるすべての場所で、きっとたくさんもつだろう。〉で、終わります。その間に描かれる奇妙な同居、祖母の死、母親のような父親。初めて読んだのは、中学生でしたが、それまで読んだことのない新鮮な印象を、忘れません。

B君。『台所太平記』(谷崎潤一郎著・中公文庫)。千倉という家の台所に奉公する、女たちの騒々しいような人生模様が、楽しい。そのなかの〈いったいに鹿児島生まれの娘さんたちは、初に限らず、煮炊きをさせると、匙加減がまことに上手なのですが、これはあの地方の特色と云えるかも知れません。〉とこの地方のひとの舌の感覚がすぐれていることに、ふれたりすると、ああ、そうなんだと思う。なんかこう、全体に、風格を感じるのですね。

Yさんは、私は庶民派ですからと『私の浅草』(沢村貞子著・暮しの手帖社)。
〈浅草の路地の朝は、味噌汁のかおりで明けた。となり同士、庇と庇がかさなりあっているようなせまい横丁の、あけっ放しの台所から、おこうこをきざむ音、茶碗をならべる音、寝呆けてなかなか起きない子を叱る声……〉この音と匂いこそが、日本の台所ですよ。
(つづく)
………

『チルチンびと』83号、「特集・キッチンで変わる暮らし」は、3月11日発売。
お楽しみに。


「変奇館、その後 ー 雑木林の庭」公開中!

変奇館、その後

“広場” コラム所載の「変奇館、その後 」(山口正介)は、第2回「雑木林の庭」です。前衛建築の家が誕生した。では、庭はどうなる。そのあたりのイキサツが、今回のテーマです。ところで、その庭に植える木を仲間の方たちと山へ採りに行く話を、『男性自身・山へ行く』で、山口瞳さんも書いています。

………

四月のはじめに、馬鹿に暑い日が続いたのをご承知だろう。空は青く晴れて、遠い眼下の多摩川も青かった。満開の桜と巴旦杏の花が見おろせた。
ジュニアが、ぶったおれて寝た。私も隣に寝た。林のなかから、森本とアオヤギの声がする。カニカンが椿の根を切る力強い音がする。ドストエフスキーが、こっそりと蘭を掘っている姿が見える。虻の羽音。
私は、この瞬間に、死んでもいいと思った。

………

この最後の1行は、シビれる。

「変奇館、その後 ー 山口瞳の文化遺産」は、コチラからごらんいただけます。

 


幸運の名刺

中村活字

中村活字の社長・中村明久さんにお目にかかって、いろいろな話をした。たとえば、近頃は、いい誤植がなくなった、ということである。誤植を辞書でひくと、……  印刷で、植字の誤りなどによる、文字、符号の誤り。(『新潮現代國語辞典』)とある。活版でなくなったいま、全盛をきわめるのは、変換違いだ。全盛が前世だったり、変換が返還だったりする、あれだ。

そんな話をしているときも、ひっきりなしに、お客さんが、店を訪れる。中村活字でつくった名刺で仕事をすると、うまくいく、という噂があるという。いかがですか。ためしてみては。名刺は、片面スミ一色、100 枚、8000 円から、とのことです。

 

(中村明久さん「活字ここにあり」は、この “広場”の 「話の名店街」でごらんいただけます)

 


神保町の「キッコロ」

神保町の「キッコロ」

 

オミヤゲは、神保町交差点わきの「神田達磨」で、タイヤキを買った。この“広場”でおなじみ、木の小物を楽しくつくる「キッコロ」が、三省堂の「いちのいち」でお店をだしているのだ。いちのいちは、三省堂を入って左手、書籍売り場の反対側にある。


「あ、どーも。今日から来週月曜日(9日)まで、一週間やるんですよ。やっぱりココは、屋外の手づくり市などとは、お客さんのカンジが、違いますね。動くものも、違います。時計とか、大きなものが、動いたり。外の市だと、1000円、2000円台の、一輪挿しとか赤ちゃんのガラガラとか、小物が、多いですけど。お客さんには、どういう木ですか、とよく訊かれます。あ、コレは、ヨーロッパのブナ。あと、ウオールナツト、チェリー……  電動糸ノコで一つひとつ切り抜いて、つくっていきます。ウイークデーにつくり、週末に出店するというペースですが、今度みたいに一週間出店するとなると、直前まで、つくりっぱなしでしたよ。暮れも、31日まで出店、お正月はひたすら寝ていましたね。あっ、お客さま…… どうぞ手にとって、ごらんくださーい」。

 


新連載「活字ここにあり」

中村活字

東京銀座、松屋の裏手といっていいのか、なにか懐かしいような横丁に「中村活字」はある。50年前、成瀬巳喜男監督の映画『秋立ちぬ』に、お店が登場したという。いま、映画を見ても、そのときとまったく変わっていませんから、と社長の中村明久さんは、言った。創業100年余、ずっと同じ場所で仕事を続けているのである。

作業場に案内された。たくさんの活字が棚に並んでいる。そのネズミ色の光を見たとき、胸が詰まった。かつては、原稿を見ながら、一字一字活字を拾い、組み、インテルという金属板で字間を調整し…… と、おそるべき手間で、雑誌も本も、つくられてきたのである。胸が詰まったのは、懐かしさではなく、なにかこう申し訳ないような気持ちだった。

 

………
活版、活字を守り続けてきた「中村活字」の歴史をこの “ 広場 ”  の「話の名店街」で、ご紹介しています。ぜひ、ごらんください。

なお、『週刊朝日』来週発売号にも中村さんは登場するという。