江分利満家の方かい 山口正介

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変奇館の15坪ほどの狭い庭の南端に瞳が植えた月桂樹の立ち木がある。高さはおよそ3メートルほどだろうか。薫り高いローリエとして料理に使えるのだが、実際にわが家で使用したことはなかったようだ。
 この夏、この月桂樹のこんもりと繁った樹冠近くにキジバトが頻繁に飛び込んでいる様子が観察できた。
 狭くなった枝と枝の間を器用に避けて葉陰に隠れてしまう。もしや巣作りではないかと思っていると、どうやら産卵したらしく、双眼鏡で覗いてみると白い卵が確認できた。
 変奇館の庭には何種類もの樹木と草花が植えられているのだか、不思議なことに、大きく育つのだが花が咲かない、実がならない、というジンクスがあった。そのほか生き物が増えたためしがない。
 だから、せめて、このキジバトが巣立つまでは静かに見守ろうと思ったのだった。

 父の瞳が亡くなっ直後、それまでも現れていたキジバトが頻繁に訪れるようになった。ご存じのようにキジバトは山鳩ともいわれ、実際にはキジよりはヤマドリに近い、美しい焦げ茶と茶色のグラデーションの地味だが美しい鳥だ。
 その毎日、何度もやってくるキジバトが、家の中に入ろうとして、窓にぶつかる。それも一度や二度ではない。入れないと分かっているのにやってきては、窓にぶつかるのだった。
 母の治子も僕も、もしかしたら、これは父の生まれ変わりではないかと思った。キジバトは生涯、相手を変えず、夫婦仲がいい象徴であり、雄と雌が代わる代わる抱卵し、雛を育てることでも知られている。
 瞳と治子も学生結婚で相思相愛といわれていた。何やら、その二人の結婚生活を思い起こされるようなキジバトの行動だった。

 太宰治に桜桃忌があるように、作家は文学忌を設ける習わしがある。瞳にも何か考えようと思っていた僕は、父を良く知る編集者に、山鳩忌というのはどうかと尋ねた。
 キジバトが家の中に入りたがったエピソードは正介さんしか知らないことなので、あまりふさわしくありませんねえ、という答だった。
 鳥類図鑑によるとキジバトの抱卵期間は二週間で、その後、二週間ほどで巣立つという。
 8 月9 日に抱卵を確認。8月25日、雛を確認。9 月12日、親鳥も雛もいなくなった。巣立ったのだろうか。

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