田園まさに荒れなんとす

父の愛読者という方がお見えになるという。
 まことに申し訳なく、僕の我が儘なのだが、通常はファンの方のご来訪や見学はお断りしている。現在の変奇館がいまだに生活の場だからにほかならない。
 はじめてお目にかかるような方のためにどうしていいか分らない。いずれにしても、それなりの掃除をしておかなければならないだろう。いつものように、そこら中に脱ぎ捨てた衣類や洗濯物がぶら下がっている状態では如何ともしがたい。
 一応の整理整頓はしたとしても、父が遺した書画なり縁の品々をご覧になりたいというのが主な目的だから、そんなものを取り出してそれなりのところに陳列しておかなければならない。

 父の書斎は、現在、僕の書斎になっていて、「どうにでもしていいよ」というのが父の遺言でもあった。物書きの書斎として使いやすくなっていると言っていたが、僕は早くからワープロを導入し、今はパソコンで仕事をしている。確かに遺された辞書や辞典、文学全集は資料として、大変ありがたく利用させてもらっている。しかし、父の原稿用紙やら万年筆やらが、往時のままに置いてあるというわけではない。
 ということなのだが、そんな中で愛読者の方をお招きしたのは、僕の方でその方に用事があったからなのだ。わざわざ来ていただいたというのが本当のところだ。
 さて、ということになったのだが、ご本人は瞳が丹精込めた庭を見ることを楽しみにしている、とおっしゃっる。
 これは困った。前にも少し触れたが変奇館の庭木は盛大に繁っていたものが、今年の異常気象のためか、僕の手入れが悪かったためか、三本が枯死してしまい、一本は家の壁にぶつかりだしたため、つい最近、計四本を伐採して撤去したばかりなのだった。

 我が家の庭は雑木林である、と書いた瞳が植えた雑木は一本も残っていない。中央に大きくなった辛夷が盛大に枝を延ばしており、これは雑木とはいえないだろう。椿は瞳の友人が持ってきてくれたものであり、蝋梅はお向かいの方からいただいたものだ。
 長年の酷使から地味は衰弱し、ちょっと掘ってもレンガのような堅い土が出るばかりだ。
 庭は荒れ果てているのだ。いずれ良く肥えた黒土を客土しなければならないのではないかと思案している。