2011年4月16 の記事一覧

続 ・ 花を見に行く

  — 上野へ花見に。その途中、「十三や」 という、くし屋さんの看板。以前、この店のご主人に聞いた話を、懐かしく思い出した。
 「くしをつくるのに、難しいのは、やっぱり歯ですね。歯をつくる仕事には、蛍光灯はダメです。自然の光じゃないと。そうでないと、歯のなかまで見えないんですよ。だから、夏場がいい時期。朝9時すぎから夜7時こ゛ろまで、座って仕事をしていますよ」
 「 いいくしはねえ、くしの重さと手の重さだけで、力をいれなくても、髪を通るんですよ。ここのくしを買ったひとが、これまで使っていたのに比べると、歯が髪によく食い込んで、怖いっていうんです。でも、くしって、本来、そういうものですよ」
 店の入り口のガラス戸に、春の日ざしが光って、なかの様子はうかがえない。それでも、くしの歯を削り、磨いている姿が、見えたような気がした。

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