花を見に行く
上野へ花見に。 歩いていると、すぐ前を、若いふたり連れ。オトコか言った。「去年より、5日、満開が遅れたらしいね」オンナが言った。「それって、サク ラも自粛したのよ」
不忍池の横の道を行くと、「十三や」という看板が目に入った。この、くし屋さんには、取材にうかがったことがある。
— くしの材料はツゲである。それも、ウチでは、鹿児島産、開聞岳近くでとれるものを使う。それが、肌ざわり、弾力性、丈夫さで、断然すぐれている。その原木を 前に、どの部分から日本髪にさすくしを取るか、などと考える。ツゲのくし屋ほど、ていねいに切る人はいない。と、これは製材屋さんの話。それから板にした状態で、10年近く寝かせる。その板を、削る前に、20日間ほど、燻す。その燻すのも、ツゲのおが屑。ツゲのおが屑は、火力が安定していて、温度が平均して出る。だから、豆を煮るのにいいと、以前は、佃煮屋さんが、もらいにきたものだった。—
ご主人の味のある話は、尽きることがなかった。 < この項つづく>
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