建築

89歳の青春

平良敬一氏(写真右)が、建築家・大野正博さん

『チルチンびと「地域主義工務店」の会』全国定例会が、14日 、ひらかれた。いろいろな企画の中で、トリはやっぱり、この方。平良敬一氏(写真右)が、建築家・大野正博さん相手にトーク。

……  僕が自信があるのは、僕の感覚とか情熱とか情緒とか、コトバというより、見て感じるというところ。長い間、いろんな建築家とおつきあいして、そのなかでも、影響を受けた人、親しくつきあうことができた人は多いんですけど、みんなそれぞれ違う。その違いがあることをわかる人間には、少しは、なっているんですよ。
……  最初は、誰かの模倣で始まるんです。ぼくから見ると、ね。だけどいつの間にか、模倣を脱して、自分の地でつくるようになる。素材の選び方から、その素材をどう生かしてどういう空間に持っていくか、ということが、だんだんわかるようになる。そういうプロセスを建築家たちは、みんな身につける。
……  みなさんも、いい設計例をたくさん見ることだと思うんですね。たくさんいいものを見ていく間に、それをマネする感覚が出るんです。イメージをカタチにしていく、そういう感覚が生まれてくるわけだから、だんだんそれが自分の考えで、自分の感覚で、自分の情熱で、感情で、モノをつくることになったときに、そこで設計者は、一つ進歩するんです。ちょっと高いレベルになるんですね。

まだほかにも、建築の直線、曲線の話。建物のシワの話。そして、僕は、建築史の勉強が、ちょっとたりなかった、いま、いろんなものを、読み始めています、まだまだ勉強、という話。3月に、89 歳になるとうかがった。

 


「大江戸左官祭り」―土と戯る

「大江戸左官祭り」へ行くには、「大江戸線」に限る。勝どき駅で降りて、会場へ。今回の催しは、一般向けにしたようだ、という声が聞こえる。
壁塗り体験。光る泥だんごづくり。かまど塗り体験。ミニかまどづくり。泥絵の具で絵や書を書く。…… オトナもコドモも、ひたすら、撫でたり、捏ねたり、塗ったり、磨いたりしている。土と戯る。
工務店の会でおなじみの、勇建工業の加村さんとワイズの山本さんに、お目にかかる。会期中も、その前の準備期間も、昼も夜も大忙しだった、と笑う。夜も ⁈⁈    かまどが人気で、ゴキゲンだ。電気が要らない、おいしく炊ける、ということで、かわいい働き者に見える。こんなに人気なら、ぜひ、この “ ひろば ”のブレゼントにして、近々、みなさんにお届けしたい、という話になる。どうか、お楽しみに、お待ちください。

 


田中敏溥さんの快気と出版を祝う会

田中敏溥・建築家の心象風景 2

9月26日。逸ノ城が、横綱・鶴竜を破った日。巨人が、36回目の優勝を決めた日。東京に、夏が戻ってきたような暑さの日。「田中敏溥さんの快気と出版を祝う会」が、神田の學士会館で開かれた。挨拶に立った田中さんは、“ 快気 ” を語った。
……

學士会館「昨年の夏、町の健康診断に行って病状を話したら、すぐ、大きな病院を紹介されました。それが、7月31日。それから、検査、検査、検査、入院、手術……
11月2日まで、入院。胃と食道をとりました。あまり食べられないので、15キロ痩せて。カッコイイって、さっきもいわれましたけどね。体重と身長の関係は、ファッションモデルなみらしい。医者にいわれて、毎朝、7000歩以上、歩きます。雪の日も、台風の日も。カッパを着て歩く。昔はヒドイ生活でしたが、健康になりつつあります。ご心配おかけしました。ありがとうございました」。そして、写真集『田中敏溥・建築家の心象風景』にふれ、「本が売れ残ると、出版社のダメージになるから、みなさん、よろしく」と、心くばり。
……
集まった人たちが、みんなそれぞれ、胸に暖かいやさしい気持ちを、抱えているような、そんな気がする、いい会だった。田中さん、おめでとうございます。

 

田中敏溥さんの快気と出版を祝う会田中敏溥さんの快気と出版を祝う会
田中敏溥さんの快気と出版を祝う会田中敏溥さんの快気と出版を祝う会


 
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写真集『田中敏溥・建築家の心象風景 2』は、風土社刊。10月上旬発売です。お楽しみに。

 


第1回・吉田桂二賞

第1回・吉田桂二賞

第1回・吉田桂二賞は、神家昭雄氏の「カイヅカイブキのある家」に、決定。その選考の経緯は『チルチンびと』81号に、掲載されている。この作品のタイトルを初めて見たとき、文学的な匂いがして、なにか短篇小説のタイトルを思わせた。そして、あらためて、カイヅカイブキを辞書で、ひいてみた。……… イブキの一品種。枝がねじれて旋回し、葉はほとんどが鱗皮状。庭木として植栽されるが、ナシの赤星病の中間寄主となるため、ナシ産地では禁忌。(『広辞苑』)とあった。
吉田桂二さんは、講評のなかで、〈貝塚息吹の古木が門前に立つこの家を初めて見た時、入る前なのになつかしい思い出が内部を満たしているに違いないと確信した。〉と、ふれている。
4月25日、賞の第1次選考の日。会場で、吉田さんの姿を、おみかけした。応募作品を見る目は、驚くほど鋭く、この賞にかける想いの強さが、伝わってきた。
…………
『チルチンびと』81号は、特集・庭時間のある暮らし。
吉田桂二賞の受賞作品、受賞のことば、選評など、ごらんいただけます。

 


第一回 吉田桂二賞授賞式

第一回 吉田桂二賞授賞式第一回  吉田桂二賞授賞式


 

……   選考委員全6名の熟慮の末に決まったのが、岡山のこの家( 「カイヅカイプキのある家 / 神家昭雄建築研究所 )であった。実物見聞は、平成26年5月30日に、実施された。築後、3年経過しているので、生活感に満ちあふれたと表現すれば、聞こえはいいが、くたびれ果てた家を見ることになるのかな、という危惧は、確かにあった。ところが、案に相違して、実に見事に住みこなされていて、驚くやら、安心するやらの短い時間を充実させることが、できた。カイヅカイプキの古木が門前に立つ、この家を初めて見たとき、入る前なのに、懐かしい想い出が、内部を満たしているに違いないと、確信した。内部は、まさに期待通りの空間が、待ち受けてくれていた。住み手は、自律した心の持ち主であるのが、空間から、直ちに読み取ることができた。言葉にすれば、端正である。……

7月4日、雨。神田の學士会館で、第一回  吉田桂二賞の授賞式が、おこなわれた。吉田桂二さんは、受賞作に、こんな言葉を贈った。

 


ジャンクな家が、できた!

ジャンクな家が、できた!

 

彼と私は、かつて、同じ編集部で働いていた。彼は、若い人らしく、シャツやスニーカーといったオシャレモノの情報にくわしく、パソコンなどの  IT  関係の店にも、よく通っていた。新しいもの好きだった。昼は、会社の近くの 「T」という喫茶店のフルーツサンドを好んで食べていた。やがて、私は編集部を離れた。彼が結婚した、家をつくっている、という話は人づてに聞いた。週末は、それにかかりきりである、という。


ところが、縁あって、『チルチンびと』80号で、この家を紹介することになった。私は久しぶりに、彼と話した。アメリカから運ばれた古材でつくられた家である、という。「そうなんです。家の外も内も壁も天井も、ぼくやオクサンで、塗りましたよ。もうヘトヘト。建て売りじゃない楽しさを、十分味わいました」。でも、なぜ、古材? 「彼女は、父親が趣味人で、小さいときから古いものに馴染みがあった。かといって、アンティークではなく、ジャンクなんですね。その大らかな文化から、こういう家が完成した」。これでもう、一段落かね? 「いやあ、庭は姫高麗芝なんですが、ちょっと油断するとすぐに雑草が生えてきて、手入れがタイヘンです。それに、彼女が今度は小屋を建てたい、といっていますし……」

ジャンク派  ×  新しいもの好き = アメリカンな家。
という、2人の掛け算に、幸せな答えが出たように思われた。
………
この家は「アメリカの古材や家具をパッチワークのように紡いで」というタイトルで、『チルチンびと』80号(6月11日発売)に掲載されています。

 


こどもと暮らす家づくり

 

彩工房 暮らしと住まいのセミナー」も回を重ね、先週末13日に行われた第5回は、いよいよ家づくりがテーマ。チルチンびと編集長・山下武秀氏と建築家・松本直子さんを恵文社一乗寺店COTTAGEさんに迎えて、「子育て」と「家づくり」についてのお話をしていただきました。

 

午前の部は、20年近くに渡り日本各地での取材を通してさまざまな人、家族に出会い、その暮らし方や地域のありかたを見つめてきた山下編集長のお話。国産材と自然素材の家づくりを選択した彼らに共通するのは、大量消費社会とはある程度距離を置き、精神的な豊かさを求めて、ていねいで自分たちらしい暮らし方を見つけているところ。衣食住の根本的なところをきちんと理解していて、自分や家族はもちろん、ご近所や地域、環境にもやさしい。病気や怪我などのリスクも、赤ちゃんのうちから体で覚えて免疫をつけ、五感を鍛えられるような家や環境で子どもたちを育てている。どう暮らしたいかがわかっていると、住む場所も、家も、食べるもの着るものもおのずと決まる。国産材を使って、大工・左官・建具職人の技術で家を建てることは、地域の経済と文化を育てることでもある。

これから日本の各地で、信頼のおける工務店が担う役割はとても大きいというエールを受け、その山下さんと『チルチンびと』を通じて長く活動を共にしてきた彩工房の森本さんから、京都の風土を生かした家づくりについてお話があった。

 

たま木亭さんの美味しいパンでランチを楽しんでいただいた後、午後は豊富な設計事例と、ご自身の3人の子育て経験をもとにした松本さんの家づくりのお話。家族のコミュニケーションが子どもたちの成長とともにどう変化するか、子供たちの心理や習性を本当によく知っておられ、それぞれの家族の歩みに合わせて階段や窓や空きスペースなどを使った楽しい仕掛けをいろいろと編み出されている。都会にありがちな、狭い土地に高い建物を作った場合でも、自然光や風、植物を上手に取り入れた心地よい家づくりが可能であることも示してくれた。たくさんの事例を使ったわかりやすく、具体的で実践的な松本さんのお話に、会場の熱心にメモを取られている方も多かった。

こどもにやさしい家づくりを真剣に考えていくことは、細やかな配慮と工夫を重ねることで、それはすべての年代の人や環境に優しいということでもある。生活文化を育てて、地域経済を循環させ発達させることにも繋がる。昔は当たり前だったそんな考え方も、いまは強く意識して継承していかないと途絶えてしまう。あらゆる地域で多くの人にこんな話を聞いてほしいと思った。

 

回を重ねるごとに参加者の方へ楽しんでもらう工夫を進化させている彩工房さんだけれど、今回はお子さん連れの方々にもゆっくり聞いていただけるようにと保育士さんをお呼びし、恵文社コテージさんのご協力で庭をお借りして野外保育所を設営されていた。参加者の方々親子ともども充実した時間が過ごせたと喜んでいただけて、これはほんとうに素晴らしいアイデアだった。

今回のイベントの様子は次号『チルチンびと 80号』(6月11日発売予定)に掲載されます。また、現在発売中の79号では「子育てのための家づくり」について、子どもが楽しく育つ家の事例、住まいの中の危険、温熱環境、メディア、おもちゃ、食育などさまざまな観点から特集しています。子育てに特化した別冊27,33,29号の『チルチンびとkids』もぜひご覧ください。

 


東京都目黒区「大岡山の家」完成見学会に行ってきました

愛知県 有限会社 高蔵の「大岡山の家」完成見学会にお邪魔してきました。

裏木曽の木材を使用しているという室内に入ると、さっそく木のよい香りが。

木の温もりが伝わるバリアフリーのフローリングと琉球畳の和室。

高蔵の田立さんのお話しを楽しく伺いながら、木組みの美しい構造、まあるい栓継ぎ、

真っ白い和紙の襖と漆喰の壁、強度のためにくるみ材を使用した水回りの床、

竹を施した扉、桜の木の大きなダイニングテーブル、1枚が分厚い木材の階段や、

気持ちのよい吹き抜けホールなどなど、たっぷりと体感することができました。

 

 


同級生が、棟梁に

昨年驚いた出来事は、急な引っ越しともうひとつ、中学時代の同級生山田が大丸建設さんの大工さんだと知ったこと。昨年の頭、奥様の充代さんと10数年ぶりにFacebookで再会し、その会話の中で「『チルチンびと』 にうちも出てるよ。大丸建設の大工やってて、棟梁で建てたんだよ・・・」 というのでビックリしてバックナンバー(『チルチンびと 別冊24号地域版 2009年4月号』 )を引っ張り出してみると、たしかに彼が棟梁となって建てた自宅が載っていた。

WEB版「チルチンびと広場」は2010年秋に準備を始動したので、私より『チルチンびと』暦が長い。先輩ではないですか。それは、必ず見学に行くね。 と約束をした矢先の転勤で行きそびれていたお宅訪問が、このお正月の帰省時にやっと実現できました。

 

山田、大工になったってよ。ということで、河合塾を経て新潟に修行に行ってしまった彼の選択に、当時地元の友人たちもちょっと驚いた。たまに会うとぐんぐん筋肉が増えて大きくなっていく様子は同世代より大人に思え、でも顔は中学時代とあまり変わらないので不思議な感じだった。本人も将来自分が大工になるとは全然思っておらず、大学受験のために予備校に通うごく普通の高校生だったらしい。それが、アルバイトで土木の仕事をするうちに面白くなり、ビルやマンションなどの建設現場で働くようになり、続けていくうちに住む人の顔が見えるような家づくりがしたいと思うようになった。就職のことをご両親に話したときは、「お祖父さんが大工だったって初めてきいて。だから親父も納得したような反応だった」 という。新潟で建築士をしているご親戚の薦めもあり、数奇屋造りなどをきっちり教えてもらえる工務店で働き始めた。血は争えない。そして、本当にこの仕事が好きなんだな、と思う。

5年経ったという家からは、まだ木のいい香りがしている。山長さんの木だそう。敷地面積はさほど広くないけれど、風呂場やトイレはゆったりスペースがとってあり、木の格子戸や、梁がしっかりと見える天井や、和室の襖の高さや、将来は押入れにする予定の造り付けの木の二段ベッドなど、快適に過ごせる工夫とこだわりが随所に感じられてすっきり、広々。かなり重いシックハウスアレルギーを持った子が遊びに来たときも、一切症状が出なかったという。この家の棟梁をやったのを機に、他の現場も任されるようになったそうだ。小学校3年生と5年生の育ち盛りの男子二人は、お父さんにならって坊主頭。みっつの坊主頭と元気なお母さんがのびのびと暮らす木の家。いいねえ、、としみじみしてしまう。

 

まさか中学校の同級生と、お正月からお酒を酌み交わしながら「やっぱり日本人は木の家が落ち着くんだね」「国産材使っていかないとねえ」 なんて話が出来ると思わなかった。『チルチンびと』にもFacebookにも感謝。山田家のみなさまも、ありがとうございました! これからも体に気をつけて、健やかでやさしい木の家をつくり続けてください。

 

 

 


『コミュニティ建築』発売!

『コミュニティ建築』(『チルチンびと』11月号増刊)

 

 『コミュニティ建築』(『チルチンびと』11月号増刊)は、ただいま好評発売中です。
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時代が大きく変動していく今、地域社会の破壊と創造が、かつてない規模と深さで起きているように見えます。新しい地域社会と文化を創造しつつある人々が生み出す、その生き方の表現としての建築を、取材し編んでいきたいと思います。(刊行の言葉から)
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 目次の一部
●『ALWAYS   三丁目の夕日』に込めた原風景への思い・阿部秀司
● 鹿児島県鹿児島市〈しょうぶ学園〉 知的障がい者支援施設が、地域に開いた
●歴史的町並みへの温かいまなざしと架構に込めた思いコミュニティ建築の構想力 吉田桂二の仕事

まちに開く「家」
●千葉県〈ブラウンズフィールド + 慈慈の邸〉 房総・いすみの風景が結ぶ農と食と宿
●東京都〈ペインズウィック〉思いのこもつた洋菓子を笑顔とともに手渡したい
●千葉県〈森の診療所+ 森のカフェ〉自然素材の建築で健康づくりを発信する診療所 + カフェ

まちと人をつなぐ
●長野県飯田市〈 わくわくホーム〉地域材で建てたQMソーラーの老人ホーム
●埼玉県〈みどり保育園〉住まいのように安心して成長できる場を、園・建築家・工務店で実現
●山口県下関市〈杜の宮〉住宅としてのしつらえを大事につくりこんだ小規模老人ホーム
かぎりなく住まいに近づく高齢者の居住施設 ・ 三浦 研
木の空間で育つ ・ 仙田 満
木のもつ癒しの力を科学する ・ 宮崎良文
豊かな時間が流れるまちへ ・ 宮本太郎
再生可能エネルギー資源と地域循環経済  ・ 植田和弘

まちの建築を木造にするために
図解・ 集成材に頼らない、木造公共建築の構造計画 ・ 山辺豊彦
計画の前に知っておきたい防火のポイント ・ 安井 昇
農林漁業の6次産業化で地域をもっと生き生きと・大多和  巌 、 岸 憲正

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 『コミュニティ建築』(『チルチンびと』11月号増刊)は、定価  1,680 円 です。