2012年11月16 の記事一覧

怪談 消えたポスト

ポスト

 

都心の会社に勤める、私の相棒の話です。そ奴は、ある夕、一通の手紙を書き終えました。いまどき、メールでも電話でもない、手紙というのは、それだけこころを込めて、ぜひ先方へ伝えたいことがあった、と思し召せ。で、いつものポストへ急ぐと、オヤ、こんなところにもポストが。投函したあと、脇にあるプレートで最後の集配時刻が18時半であることも、確認。やれやれです。

さてつぎの週。その道を通りかかると、ポストがない。ない。急ぎ会社に戻り、同僚に確認すると、「毎日あそこを通るけど、ポストなんか見たことない」「疲れてんじゃないですか。幻覚ですよ」と冷たい。郵便局に訊いた。「ポストが現れて、消えた? いやあ、ポストの設置や移動には手続きが必要で、必ず記録を残しますが、それも残ってないし」と局員。で、その角にある店を訪ねた。おばさんが、いう。「ここにポスト? 見たことないわねえ」 それでも、と食い下がり「なんかこの辺、変わったことなかったですか」「ああ、そういえば、先週ドラマの撮影があったわね。私の店も貸してあげたけど。そのとき、ポスト? ウーン、そういえばロケ隊の荷物に、赤い箱があったような……」 それだ。

店にあった名刺を頼りに、制作会社に連絡する。「ええ、確かにロケでポストは使用しました。ポストには撮影直前まで注意書きを貼り、終了後には、すぐ撤去するはずなんですが。いやでも、そーですか、あなたは、それに手紙を入れた。そーですか。いますぐ、そのポストから手紙を探して、私のほうで投函しましょうか」

それから半月後の夜。くだんのドラマは放映された。ポスト? もちろんありましたよ。赤い姿が主役に見えましたね。

(写真のポストは、当゛事件゛とは関係ありません)