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「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」を観ました

現在公開中の「WOOD JOB!(ウッジョブ)~神去なあなあ日常~」を観てきました。林業のことなどなんにも知らなかった主人公が、強い意気込みや高い志などはまったくないまま、なんとなく林業の世界に入りこんで、山の仕事のしんどさや面白さを経験しながらその魅力にじわじわとはまり、成長していく1年間の物語。

エンターテイメント作品だからもちろんデフォルメされてる部分も多々あるけれど、かなりの大胆な祭りのシーンなども、CG一切なしという俳優さんたちの熱演っぷり、とくにヨキ役の伊藤英明さんの笑えるぐらいに野性味溢れる身のこなしが終始圧巻。実際に木を切り倒す場面や、服装・装備や道具、その使い方、斜面を滑り落ちたり木の上をよじ登るときの緊張感、木の上に腰かけて眺める山の壮大な風景は映像でこその迫力!木の香りをいっぱいに乗せた風がこちらまで漂ってくるような清涼感があった。

熱い季節に延々続く下刈り。高い木の上に縄一本で登ったり、険しい斜面で作業したり、巨木を倒したりと命がけの作業。先祖代々から受け継がれてきたものを後世にも残す責任。人間の生命より長いサイクルのものを育てる、果てしなく根気のいる仕事。向き不向きもあるだろうし、色々な覚悟も必要な仕事だというのもよくわかった。でも、最初から人並み外れた体力やすごい精神力や、高い能力を持ち合わせていなくても、勇気君みたいなふつうの、どちらかというとやる気のない若者でも、毎日山に入って全身を使って働き、携帯電話も通じない澄み切った空気を吸い、採れたての野菜を食べ、情の厚い人間関係に触れ、山の神様を大切にする日々の積み重ねで「なあなあ」に人間の本能的な部分が目覚め、育てられ、夢中になって、いつしか山の仕事と暮らしから離れがたくなる。一度は都会へ帰ったのに、木の匂いを嗅いでたまらなくなり、やっぱり神去村へ戻ってきて、車窓から嬉しそうに森を見上げるラストシーンはとても自然で素直な感情に思えて共感した。日本のあちこちで、こんな杣人予備軍たちがこれから増えてくるのかもしれない。

 

三浦しをんさんの原作『神去なあなあ日常』は、映画を観そびれたとしてもぜひ読んでほしい。主人公勇気の話し言葉にのせて、少しずつ周囲の人と信頼を築き上げていく日々のくらしの出来事や、里山の移ろいゆく四季の風景、山への信仰、祭りに込められた意味など深いところまでも、軽やかに語られていて、惹きこまれた。

 

 

森林のこと、もっと知りたい方、興味のある方、こちらのコラムもぜひ読んでみてください↓

 

□日本全体から、世界から、日本の森林を眺め、輸送距離や「第二の森林」などの研究を通して「木材製品や木造建築物をたくさんつくって、長く大切に使う!」という目標に取り組む滝口建築スタジオ代表 滝口泰弘さんのコラム「森林を守る」 https://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/contents/forest/

□地域の森林所有者たちと共有林の再生保護活動を続け、かつての里山の豊かな暮らしや感覚を取り戻して新しい「森林化社会」を目指す、NPO法人「杣の杜学舎」代表 鈴木章さんのコラム「続・森林を守る」 https://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/forest2/

□田島山業代表取締役、日田林業500年を考える会会長 田島信太郎さんが「山に木を植え、育てて、切って売る」林業の仕事を小学生にもわかるように教えてくれる好評連載中のコラム「森からの手紙」 https://www.chilchinbito-hiroba.jp/column/letter/

田島山業では子どもたちを対象とした森林環境教育、また学生、社会人の森林ボランティア受入れもされています。ちなみに神去村「中村林業」ほどハードじゃないそうです^^


 

 

 


『食べること・生きること・死ぬこと 〜ツバル離島の映像とともに〜』 もんでん奈津代・ナツさんのお話会

 

先月、スコップ・アンド・ホーさんで開催された、もんでん奈津代(以下ナツ)さんのお話会に行ってきました。テーマは『食べること・生きること・死ぬこと 〜ツバル離島の映像とともに〜』と、とてもストレートなだけに、どんなお話会になるのやらかえって想像がつかない。店内に展示された写真を観ると、南国らしい植物や海や、人の表情がどれも生命力に満ちていて、ここでどういう暮らしをしているのか知りたいと思った。

ナツさんの言葉は直球で、手振り身振りも顔の表情もとても大きい。自分の生き方に対して本当に誠実で、こんなもんだろう。という妥協や誤魔化しが全然ない。いきなり話に惹きこまれた。学生時代からずっと自分が何になろうとしているのかを探し、もがき、鬱々とすることからも逃げず、働きだしてからも直観の赴くままに世界を歩き、探し続けて、あるときツバル離島の人々とその暮らしに出会って、理屈抜きでこれが生きているってことなんだ!と実感できたという。そして、現地でとある一家に家族として迎えられ、幼い娘さんとともに、ツバルと日本を行ったり来たりの生活を始める。

生物を獲り(漁り、または採り)食べて生きる、子が生まれれば周囲のみんなで面倒を見る、離島には病院もなく薬も簡単には手に入らないので、人もよく亡くなる。埋葬をして人間が土に返る姿も、子供のころから目の当たりにする。日本でも一昔前まではそうだったのかもしれないけれど、映像で見るとやはりショックを受けた。不思議なことに、同時に話を聞きながら、解放感なのかどんどん気持ちが楽になっていく。

ナツさんは、このお話会にあたり、「昔のままの暮らしがまだ残っていて、人間本来のあるべき姿があって、日本人が忘れてきたものがここにはあって、素晴らしいね、大事にしたいね」というような話にまとめるのは違うと感じ、何を伝えようとしているのかをずっと当日まで考えていたそう。住み慣れた人にとっては素晴らしいこの島にも、都会の暮らしにあこがれ、島を出て、稼いで家族を裕福にすることに喜びを感じる若者たちがいる。幼いころから転勤族で、都会の中で土にあまり触らず育った人間だからこそ、土に憧れ、自然の恵みに感動し、ツバルの離島で自由と喜びを感じたけれど、逆の立場だったらその若者たちと同じ行動をとったかもしれない。とナツさんは言う。

誰一人同じ人間はいないし、同じものを見ても考えることは違う、世の中は善悪で判断できないことだらけ。迷いなく自分の道だと思えることが、探し続ければ必ずどこかにあるということを伝えたい。周りの人や、大量に入ってくる情報が、どれだけ自分の考えと違っていても、自分が間違っているのだとかおかしいのだとか思わなくてもいい。

考え続けて、行動し続けて、自分のゆるぎない生き方を見つけた人の言葉は力強く温かで、勇気が湧いてくる。悩み多き若き人たちに、ナツさんのお話をぜひ聞いてほしいと思いました。ナツさん、スコップ・アンド・ホーさん、ありがとうございました。

 

今回のような「食べること・生きること・死ぬこと」のほかにも離島の暮らしを通した「子育てのこと」「クラフトのこと」などさまざまなテーマでお話をしていただけるとのこと。お話会をご希望の方は、ナツさんまで直接ご連絡ください。

もんでん奈津代さんご連絡先:

TEL&FAX 075-712-6867

住所:〒606-0943 京都市左京区松ヶ崎東町30-1

 

ナツさんのHP:http://monden.daa.jp/01tuvalu/2011/2011top.html

ツバル離島日記、ご感想・ご意見求めてます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

 


こどもと暮らす家づくり

 

彩工房 暮らしと住まいのセミナー」も回を重ね、先週末13日に行われた第5回は、いよいよ家づくりがテーマ。チルチンびと編集長・山下武秀氏と建築家・松本直子さんを恵文社一乗寺店COTTAGEさんに迎えて、「子育て」と「家づくり」についてのお話をしていただきました。

 

午前の部は、20年近くに渡り日本各地での取材を通してさまざまな人、家族に出会い、その暮らし方や地域のありかたを見つめてきた山下編集長のお話。国産材と自然素材の家づくりを選択した彼らに共通するのは、大量消費社会とはある程度距離を置き、精神的な豊かさを求めて、ていねいで自分たちらしい暮らし方を見つけているところ。衣食住の根本的なところをきちんと理解していて、自分や家族はもちろん、ご近所や地域、環境にもやさしい。病気や怪我などのリスクも、赤ちゃんのうちから体で覚えて免疫をつけ、五感を鍛えられるような家や環境で子どもたちを育てている。どう暮らしたいかがわかっていると、住む場所も、家も、食べるもの着るものもおのずと決まる。国産材を使って、大工・左官・建具職人の技術で家を建てることは、地域の経済と文化を育てることでもある。

これから日本の各地で、信頼のおける工務店が担う役割はとても大きいというエールを受け、その山下さんと『チルチンびと』を通じて長く活動を共にしてきた彩工房の森本さんから、京都の風土を生かした家づくりについてお話があった。

 

たま木亭さんの美味しいパンでランチを楽しんでいただいた後、午後は豊富な設計事例と、ご自身の3人の子育て経験をもとにした松本さんの家づくりのお話。家族のコミュニケーションが子どもたちの成長とともにどう変化するか、子供たちの心理や習性を本当によく知っておられ、それぞれの家族の歩みに合わせて階段や窓や空きスペースなどを使った楽しい仕掛けをいろいろと編み出されている。都会にありがちな、狭い土地に高い建物を作った場合でも、自然光や風、植物を上手に取り入れた心地よい家づくりが可能であることも示してくれた。たくさんの事例を使ったわかりやすく、具体的で実践的な松本さんのお話に、会場の熱心にメモを取られている方も多かった。

こどもにやさしい家づくりを真剣に考えていくことは、細やかな配慮と工夫を重ねることで、それはすべての年代の人や環境に優しいということでもある。生活文化を育てて、地域経済を循環させ発達させることにも繋がる。昔は当たり前だったそんな考え方も、いまは強く意識して継承していかないと途絶えてしまう。あらゆる地域で多くの人にこんな話を聞いてほしいと思った。

 

回を重ねるごとに参加者の方へ楽しんでもらう工夫を進化させている彩工房さんだけれど、今回はお子さん連れの方々にもゆっくり聞いていただけるようにと保育士さんをお呼びし、恵文社コテージさんのご協力で庭をお借りして野外保育所を設営されていた。参加者の方々親子ともども充実した時間が過ごせたと喜んでいただけて、これはほんとうに素晴らしいアイデアだった。

今回のイベントの様子は次号『チルチンびと 80号』(6月11日発売予定)に掲載されます。また、現在発売中の79号では「子育てのための家づくり」について、子どもが楽しく育つ家の事例、住まいの中の危険、温熱環境、メディア、おもちゃ、食育などさまざまな観点から特集しています。子育てに特化した別冊27,33,29号の『チルチンびとkids』もぜひご覧ください。

 


山陰の旅  - 鳥取編 -

翌日、鳥取へ向かった。松江からは特急で1時間半ぐらい。まずは鳥取たくみ工芸店さんにお邪魔した。こちらは、鳥取で医師をしながら民藝活動家として幅広い分野の工芸品の作り手を育て「鳥取民芸の父」と呼ばれる吉田璋也氏が、1932年に開店した日本初の由緒正しき民芸のセレクトショップ。山陰を中心とした各地の陶芸、木工、金属、ガラス、染織、かご、和紙、人形などが並んでいる。なかでも2012年に96歳で亡くなられた加藤廉兵衛さんの北条土人形に惹きつけられた。

神話や民話をもとにしたという人形たちの、なんともとぼけた表情の可愛らしさは一度見たら忘れられない。とても残念なことに後継の方もいないので、もう残された人形たちもほんの僅かとのこと。

羊を一匹、連れて帰った

 

お隣の民藝美術館は、職人さんたちが仕事のお手本にできるようにと設立したもので、吉田氏が国内外で集めた民芸品など展示物はもちろん、建物もすみずみまで素晴らしい。自らデザインしたという椅子、柱に掛けられた額、組子障子やスイッチカバーに至るまで「ていねいで、美しく、実用的な手仕事」を広め、後世に残そうという情熱と美意識が息づいていた。

お昼、チルチンびと広場のイラストを描いていただいた西淑さんに紹介してもらった食堂カルンさんに行く。古い一軒家を改装した、のんびり、ゆるいムードで心地よく過ごせる。ライブやイベントなどのチラシもたくさん置かれていて、周辺の人から愛されている感じがわかる。

こちらは、以前中野無国籍食堂カルマという、もう中野北口で33年という無国籍料理の草分け的存在のお店で働いていたご店主が、3年前に鳥取に戻って開店したお店。カルマさん仕込みのスパイスが効いた本格派アジアンごはんが美味しかった。「お向かいの上田ビルと、近くの森の生活者さんというベーグル屋さんにも、もし時間あったら行ってみてください」と教わったので行ってみた。

昭和なムードの上田ビル。この2階に3軒のお店が集まる。santanacotoyaさんは古いものや器、家具、作家さんのものなどを扱うお店。

borzoi recordさんは、中古と新品のcdやレコード、本を扱うお店。

どちらも、そんなに広くない空間に、気になるもの欲しくなるものがいっぱいあって、ご店主のセンスが伺われるお店だった。一緒にイベントをすることもあるのだとか。楽しそう。近くにこんなところがあったら通ってしまう。もうひとつの「うわの空」さんのドアに「森の生活者でミーティング中」と貼ってあった。商店街を少し歩いて、こちらもレトロなビルの2階にある。

ご店主にチルチンびと広場のカードを見せると、「あ、淑ちゃんの絵!」と、ほぼ顔パスで打ち合わせ中のみなさんに紹介してくださった。偶然、この日はカルマの店主・丸山伊太朗さんが東京からやってきて「うわの空」のこれからについて話し合っていたところだった。この空間には肩書きはなく、周辺の人たちが集まって自由に楽しく面白く育っていく予定の、未知数の場所なのだそうで、どこかチルチンびと広場と共通している。もちろん西さんの絵のおかげもあるのだけれど、言葉で説明しづらい部分をすんなりと感じ取ってくださった気がした。

駅の方へ戻ってgallery shop SORAさんを訪ねた。スタッフの女性が驚いた顔で「ちょうど『チルチンびと』を読んでいたところです!」と手にした読みかけの『チルチンびと』を見せてくださった。なんと。こちらでは、山陰の若手作家さんを中心としたクラフトが集まっていて、これからの人を育てようというご店主の願いを感じた。鳥取の人たちは作家さんでなくても普通になにかを作る人が多いという。手芸関連のイベントをすると朝から階段のところに行列ができるのだそう。やはりものづくりが息づく土地柄なのだ。


最後にもう少し時間があったので、鳥取たくみ工芸店で教えていただいた万年筆博士さんへ。こちらには全国から、世界からも万年筆を求める人がやってくる。自分の書き癖の診断をしてカルテをつくり、そこから万年筆づくりが始まる。「私たち自らデザインすることはありません。それぞれのお客様に合わせた長さや重心、材料をもとに設計をして、使い心地で改良したり、それを他のお客様がまた取り入れて新しいデザインが生まれたりしていいものが残っていく。まさしく用の美です」と。ここにも、暮らしを美しくするものづくりの精神があった。


短い時間だったけれど、ふつふつと沸いている鳥取モノづくりパワーを感じた旅でした。

今回はお訪ねできなかったけれど鳥取は地方自治体も頑張っていて、鳥取県文化観光スポーツ局観光戦略課さんの活動も柔軟で、精力的です。4月17日~は京都ロクさんで「とっとり物食展」が開催されます。

 


山陰の旅 ― 島根・湯町窯編 ―

加藤休ミさんのクレヨンお相撲画展(観るだけで元気が出た!)が観たくてnowakiさんに行くと、牧野伊三夫さんが『四月と十月』で取材した湯町窯に絵付けをしにいくのだけど一緒に行かないかと誘ってもらった。こんな機会はめったにないと便乗させてもらうことにしたのが今回の旅の始まり。

※この旅が決まって数日後、安西水丸さんがお亡くなりになった。私は絵と文章と写真を通してしか存じ上げないが、とくに76号の鳥取民芸の旅と、今回79号の鎌倉山のご自宅の民芸ライフの特集は何回も読み、紙面を通じて水丸先生とカレーと器談義するのを妄想したりして、勝手に身近な存在に感じていたので、あまりに突然でショックだった。ほんとうに、心からご冥福をお祈りします。そして、毎号の素敵な絵と文章を、ありがとうございました。

 

京都から湯町窯のある玉造温泉まではバスが出ている。夜行バスで約6時間。だけど玉造まで行くと温泉街価格だし、駅から少しかかるし、松江に泊まったほうがいいよ、前の日出雲を回って私も松江に泊まってるから、着いたら電話くれたら朝ご飯用意しておくから。と、いつもながらどこまでも気配りのゆきとどいたnowakiご店主のみにちゃんに言われるがまま、宿を松江にとった。朝牧野さんたちと待ち合わせ、玉造温泉に移動する電車の中で、大きな花かごを背負ってオレンジのジャンパーを来た花売りのおばちゃんに牧野さんいきなり「お花、すごいですね」と話しかける。後姿もしみじみと可愛く、みんなで見送った。

 

座っているだけで咲いているみたいだった

 

湯町窯は、現在4軒ある布志名焼の窯元のひとつ。駅に看板もあるけれど、なくてもわかるぐらいに徒歩すぐだ。

到着と同時に湯町窯のご当主、福間琇士さんが手にふきのとうを持ちながら現れ、「あら先生、娘さんたちつれて(笑)」とにこやかに出迎えてくださった。黄色や飴色、青色の艶やかな丸みのある器がたくさん並んで、早くも欲しいものだらけの予感がする。二階を案内していただくと、棟方志功、バーナードリーチ、河井寬次郎、山下清らが絵付けした貴重な作品が何気なく置いてある。その辺にさらっとかけられた竹かごや座布団やテーブルランナーも、手仕事のいいものが集まっていてちょっとドキドキした。

 

褌一丁で絵付けをする山下清氏の写真と当時の新聞記事が

 

絵に感動しつつ「うーむ・・・」と見つめている牧野さんに、福間先生はさくさくと絵付けの説明をし、下で我々皆にお抹茶とお菓子を出してくださり、少し世間話をした後、すでに準備の整っている奥の工房で絵付け開始となった。ゆったりとこちらをくつろがせてくださるかと思えば、気づくと見えなくなって次の行動に移られている。生粋の職人さんらしい、素早く、静かで無駄のない軽やかな身のこなしがかっこいい。

絵付けの方法にはいろいろあるけれど、今回は素地に塗った化粧泥が乾かないうちに竹べらでひっかくようにして絵を描くスタイルで、これは牧野さんの絵とすごく相性がよさそうだった。好奇心丸出しの編集者、もしくは酔っ払いのおじさん、この二つは両立できるのでだいたいそういう姿を目にすることが多いけれど、絵を描き始めると牧野さんはとたんに画家になり、どこからみても画家なのだった。あたりまえなのに不思議な姿。

その間我々は町を散策することにした。玉造というだけあって“まが玉”づくしの町だった。ちょっとぐったりきて宍道湖でぼーっとする。晴れて暖かかったので、お昼はみんなで土手に座ってお弁当を食べた。川沿いの桜並木はいまにも咲きそうなつぼみが無数についている。あまりに気持ち良くて寝ころぶと、シャーッと女子学生が自転車でプリーツスカートをひるがえしながら通り、牧野さんの頭の上を通るときはその速度が上がった。そんな長閑な昼餉・・・。午後は宍道湖沿いに車で10分ほどの雲善窯見学へ。御用窯として開かれた雲善窯は、初代で布志名焼の品質を向上させ、大名茶人でもあった松平不昧公の愛護を受けた二代目が「雲善」という号を受けて黄釉を改良されたという、布志名焼の歴史に大きく影響してきた窯だった。

 

つつましやかな雀の香合

 

ここまできたので玉造温泉街まで足をのばしてみる。玉作湯神社は願い事のかなうパワースポットということで、若き女性たちもよくみかけたが、またもまが玉攻めにあい、早々に湯町窯に戻ると、この絵付け企画の発起人、富山総曲輪(そうがわ)の民芸と器の店・林ショップの林悠介さんが到着していた。林さんは『四月と十月』vol.24の、これはちょっともう画家であり編集者である牧野さんにしかできない「湯町窯の画家」という取材記事を読んで、この企画を考えた発起人だ。14時間もかけて富山から車で来たということで、目が充血していて眠そうだった。松江の町もすこし散策したかったので、あれこれ目移りしながら器選びをして、ここで湯町窯のみなさんにさよならをした。

 

焼き上がりがとても楽しみ(林ショップ、nowakiで入荷予定)

 

 

松江に戻り、前日みにちゃんが発見したというイマジンコーヒーさんに行く。焙煎機が置かれ、いい香り。この4月6日には湯町窯で出張コーヒーをされるのだそう。湯町窯にこの香りが漂うのは、いいなと思う。

お店でもらった「タテ町商店街マップ」をもとに、昭和の香りがする古い町並みを歩く。奥で機織りをする女性の姿が気になって、ちょっとお話を聞くことにした。みにちゃんは京都に帰る時間となり、ここでお別れ。ありがとう。ありがとう。

美術大学を卒業後、倉敷で手織り草木染めを学び、出雲織の青戸柚美江先生に師事され、昨年「直と青」として独立されたばかりの飯田奈央さんは、畑で自ら育てた和綿で紡いだ糸を染めたりもされる。美しい青と白を生かした爽やかな反物が印象的だった。彼女もおすすめのSOUKA 草花さんにご挨拶に行きたかったけれど、残念ながら定休日。もうひとつ教わったobjectsさんを訪ねた。夕日が移る川面の傍らに佇む、風情のある建物、窓から漏れるオレンジの灯り。映画みたいだ。

「ここは昔テーラーだった建物をほとんどそのまま使っています。昭和8年からほとんど変わってないと思います。変える必要がないですね。こういう古いものや器をしっかりと受け止めてくれる重厚さがあります」と話してくれたご店主の佐々木創さん。ちょうどこの日は「古いモノ展」が開催されていて、常設とは違うとのことだったけれど、長いこと愛されてきた物たちの静かな自信に満ちた感じがじわじわと漂っていて、ずっと長い間こうだったかのように店に馴染んでいた。しばらく話していると、こちらのご店主が先ほどの林さんと一緒に旅をしたこともあるほどの仲だということが判明して驚く。

 

さて、130枚ものお皿の絵付けを無事終えた牧野さんから連絡が入り、なんと福間先生が奥様と一緒に松江までいらしてくださるそうだ。信じられない。さすが人たらし。めったに夜の街に出かけることがないという福間先生が、昔行っていたおでん屋ひとみさんの店に連れて行ってくださった。ひとみさんは50年もこの店をやっておられる美人女将。おでんはもちろん、どて焼きも、お刺身も、さっと炙って出してくれたうるめいわしも、全部美味しい。いかが出てくると「いかさまですわ~」ぶりがでてくると「おひさしぶり!」と秒速で繰り出される先生のほのぼのした洒落はもう駄洒落の域を超え職人技。楽しくて、感動しっぱなしの夜だった。誘ってくれたみにちゃんがこの場にいないのが申し訳なく、残念だった。

 

福間先生には何も取材らしきことをできなかったけれど、あたたかくて、やさしくて、かわいらしくて、面白くて、仕事にはめっぽうストイックだけど人に厳しさを押し付けなくて、軽やかな、すてきなお人柄がほんとうによくわかったし、それが全部器に現れていて、先生の小さな分身のようなその器を、いま毎日使っているから満足だ。

 

(鳥取編へ続く)

 


植物力日記

毎年けだるくモヤモヤするこの時期。花粉症とまではいかないが、なんだか目耳鼻周りもモゾモゾする・・・でも、今年は植物パワーに助けてもらっているせいか、いまのところとても快適に過ごせています。

 

3/8 AM

第4回彩工房暮らしと住まいのセミナーのお手伝い。今回は植物を楽しむクラフトや、個人宅、お店の庭津造りを手がける奥田由味子さんを講師に迎えてガーデンクラフト講座と庭づくりのお話。形が自由に作りやすいワイヤーと、あまり頻繁に水をあげなくてもいい多肉植物の特性を生かした可愛い作品ですが、籠を作る作業はなかなかハード。みなさんワイヤーと格闘していました。

 

同じ材料でも個性が滲み出るのが、手づくりのいいところ

 

宇治「たま木亭」の美味しいサンドイッチとほとり・ポトリの和久さんが淹れてくれた美味しいフェアトレードコーヒーでランチの後は、奥田さんが参加者の方の庭づくりや植物の育て方などさまざまな疑問やお悩みに答えてくれる質問タイム。園芸店や専門書とはまた違って、暮らしにとりいれやすい解決法を、ご自分の経験をふまえてわかりやすく教えてくださるので、次々に質問が飛び出した。

 

3/8 PM

帰り道、小さい部屋さんに「静かな春」展を観に寄る(ここで奥田さんにバッタリ遭遇!)。とりことりさんの細い細い糸で編んだ種子は、隣に双子のように置いてある本物以上に形状が深く印象づけられ、名前も覚えてしまう。センダン、イロハカエデ、シャリンバイ。道に落ちた実を見て「あ、センダン」と思うようになった。美しい種子の立体図鑑でした。

金属に見えたこちらの箱は蝋引きした紙で出来ており、近くのlagado研究所さんで作られているというので行ってみた。こんなところに・・・という意外な場所にひっそりある骨董&bar? cafe? 古いヨーロッパのお伽噺に出てくる物知りじいさんの部屋のよう。

 

3/9 PM

お松明(東大寺修二会)を観にいく。752年から数々の戦火や災害をくぐり抜け、一度も途絶えることなく続けられてきたという奇跡のような行事。童子(といってもベテランさんは70歳近い!!)という世話役さんが、大きいもので長さ8メートル、重さ60キロという自ら作った巨大松明を持って二月堂の欄干を走る。暗闇に浮かぶ炎が流れていく様子はとても神秘的。天下泰平、無病息災を祈り火の粉をかぶりました。餅花つくりのときに教えてもらった染司よしおかさんの和紙の椿が、この奥に咲いているのだな、と思いながら見た。神事と植物にも古来から伝わる深い縁がありそう。

3/14 AM

アトリエミショー鞍田 愛希子さんのメディカルアロマテラピー講座に行く。プレ講座で良質の精油の見わけ方、抽出方法、禁忌事項など、アロマを効果的に楽しむための知識を教えてもらう。精油の、ほんの数パーセントの分析しきれない未知数な部分が希望でもあり危険も孕むという鞍田さんのお話が心に残る。薬にも毒にもなる植物の奥深さ。その後今回のテーマ「柑橘系」の植物についての講義を香り嗅ぎながら聴き、最後に自分の好きな香りのオイルや洗剤、シアバターなどを作る。私がつくったマッサージオイルはカロフィラムというすこしカレーの香りのする植物油に、辛めな香りの柑橘系オイルを垂らし、仕上げにカルダモンを2滴。インド風。少しスパイシーなこの香りを嗅ぐと体がふっと軽くなって、さぼりがちだった睡眠前のストレッチまで俄然やる気になる。この日は植物をモチーフにした素敵なアクセサリーをつくっているAFLO+さん、革工房Rimさん、植物の香りの研究をしている現在臨月妊婦さんなどなど生徒さんも多彩で、楽しく充実した講義でした。

 

植物パワー溢れるアトリエミショーさん

 

 

3月某日

テノナル工藝百職さんに教わったたま茶さんの「春のおとずれ」というハーブティー。ほのかに花の香りのする緑茶のよう。爽やかでリラックスできて、頭もすっきりする。癖になる。ほぼ珈琲、ときどき三年番茶というお茶ライフに、かなりの頻度でこのハーブティーが食い込んできています。

 

植物の力を感じる日々は、まだまだ続きそうです。 そういえば、「植物色図鑑」も本日更新。春の香り立つような桜色が素敵です。

 

 


我が家の一員

昨年秋、手仕事雑貨屋風土さんで出会って、ひと目で気に入った釜定さんの鉄瓶。



随分前に読んだ平松洋子さんのエッセイに出てきて、以来憧れの品だった。鉄瓶を育てる間の忍耐と緊張感の日々、そしてやっと錆に打ち勝って白い湯垢(この白い皮膜が鉄瓶の内側に張ると、御湯がまろやかになって美味しくなる)に覆われた達成感が強く印象に残った。でも扱うのが大変そうだし、たまに目にするものは内側にさび止めが塗ってあったり、モダンにアレンジされていたり、あまりに玄人っぽかったりと、これというものに出会わなかった。それが、ある日理想的なのが現れた! と思ったらやっぱり釜定さんので目が離せなくなり、風土さんも「私たちもこれを使っていますよ。コーヒーもお茶もほんとに美味しいですよ」とおっしゃるし、「次に入ってくるのは来年の5月なんです」なんておっしゃるし、そういえば最近貧血気味だったから(前からだけど)鉄分が必要だし、一生物(ばっかりだけど)だし・・・結局、連れて帰ることになりました。

 

先のエッセイで刷り込まれたこともあり、ずぼらな自分とはおさらばして、ていねいに向き合おうと覚悟を決める。添えられていたお手入れ方法通りにお茶の葉を何度か煮立てる。こうするとお茶に含まれるタンニンが鉄と結びついて臭いや味を抑える効果があるそう。それから毎日湯を沸かし、お手入れ方法通りに育っているかとやっきになって鉄瓶の中を覗き込んでいたのだけれど、生来のずぼらは抑えきれずに、たまに空焚きもしたりしながら、がんがん毎日使っていたら、いつのまにかうっすら白い湯垢が張って、外側にも手垢で鈍い艶も出てきて、近頃はだいぶこなれてきた感じ。想像していたよりもずっと気楽につきあえる。早くお湯が沸かせるし、なんといってもまろやかだし、白湯も美味しくて、もう他の道具で湯を沸かす気になれないほど。眺めても眺めても飽きない美しいフォルム。鉄とは思えない柔らかな肌。なぜか気に入ったものから壊したり失くしたりして、何度も心に痛手を負っているので、なくならないよ。そばにいるよ。どっしり。というこの重みも嬉しい。

 

今年のお正月美術館「えき」で観た 「御釜師400年の仕事」(とても素晴らしい展示だった!)のギャラリートークで、16代目大西清右衛門さんが「みなさん釜を大事にしすぎです。さびたらすぐ怖がって仕舞ってそのまんまにしてしまう。多少錆びてもよく洗って拭き取って乾かして、よく使ってあげることがいいんです」とおっしゃっていた。

大切にするということは、触らないということではなく毎日愛情を持って接すること。怖がることないよ。人も道具も、おんなじだよ。そんなことも教えてくれる、我が家のたいせつな存在です。

 

お茶の時間がもっと楽しみになりました

 


出汁力

 

2月8日、彩工房 暮らしと住まいのセミナー 「オーガニック野菜と簡単おだしでつくる ミニ料理教室」に参加してきました。講師はRelishの森かおるさん。場所は恵文社COTTAGEさん。雪にもかかわらず参加者22名の方々、遅刻もなく集まっていただいた。

2時間ほどのミニ料理教室だけれど、お出汁の魅力を存分に伝えたい、と考えていただいたレシピは「小芋と白ねぎと菜の花の揚げびたし/水菜と油揚げの和風ゴマドレサラダ/コロコロ大根のきのこあんかけ/たっぷり白菜の味噌汁/ごぼうとおじゃこの混ぜごはん」 の5種類。5班に分けてコンロ回りを交互に使うスケジュールを計算し、それぞれの班を縦横無尽に動き回り、教えつつ、作りつつ、ときに笑わせながら、森さんはスーパーマンのような八面六臂の活躍ぶり。生徒さんたちもどんどん自発的に動いて片づけまで積極的にお手伝いもしてくださり、すこしだけ時間オーバーしたものの無事完成です。

いい昆布と削り節で丁寧にとったお出汁の香りに、会場にいる人々の鼻孔も膨らむ。出汁の旨みが、瑞々しいオーガニック野菜(今回の調達先:スコップ・アンド・ホーさん、ONE DROPさん、HELPさん)の美味しさをさらに引き立てる。つかう調味料はとても少ないのにしっかりした味。白菜のみのシンプルなお味噌汁でも、香りを嗅いだだけで身体が目覚め、飲めば身体のすみずみに沁みて、細胞が喜ぶ感じ。森さんのレシピはふだんからあまり変わった材料や調味料を使わず手に入りやすいもので、家族のだれもが美味しく食べられて身体にいいものを心がけているそう。今回教えていただいたのも、どれも舌にも胃にもやさしく、野菜中心なのにお腹も満足。家ですぐにリピートしたくなるものばかりでした。

 

「料理人ではないのだから毎日いい材料ばかり使って立派な献立をつくるなんてとても無理。でもきちんとお出汁だけはとって、新鮮な野菜とできるだけ材料欄がシンプルな、添加物の少ない調味料を使うことに気をつけると、サプリメント要らずで元気でいられる」という森さんの言葉に、皆さん大きく頷く。女子力、鈍感力、驚く力に聞く力・・・いろんな力があるけれど、日本人ならやっぱり出汁力! と改めて感じました。

 

彩工房さんの提唱する「持続可能な環境を守る、自然素材の家づくり」に「楽しく作れて美味しくて、家族皆が元気になる食」を伝えてきた森さんが賛同してくださって実現できた、内容の濃い出張料理教室でした。また恵文社COTTAGEのマネージャー永井さんは、イレギュラーな注文のあれこれに臨機応変に対応してくださった。ありがとうございました。

 

※彩工房さんは、今後も3月8日(土)にワイヤークラフト作家の奥田由味子さんのガーデンクラフト講座と庭づくりのお話、4月13日(日)に雑誌『チルチンびと』編集長 山下武秀さんと建築家 松本直子さんを迎えて子どもと暮らす家づくりについてトークイベントを恵文社COTTAGEさんで開催予定。ぜひご参加ください。

 


「昇苑くみひも」さんの工房を訪問しました

「和の手ざわり」の題材を考えていて昨年HINAYAさんのテキスタイルマルシェで目にしたkmihimonoiroのリーフレットのことを思い出し、「昇苑くみひも」さんに連絡をしてみた。取材をお引き受けくださった営業課長の能勢将平さんのお話は、記事に載せ切れないところも個人的に興味深いものだったので、こちらで番外編を。

 

人類が二足歩行となり衣類を着て狩りを始めるころから、紐はその汎用性、柔軟性を生かして人間の生活に密着した道具となっていった。そのことは世界のいたるところで遺跡や文献などからも発見されているというけれど、日本はとくに世界の中でも「組紐」の技術が圧倒的に発展した国だそうだ。一番盛んに使われたのは戦国時代に武具を装着する紐、これは確実に激しい消耗品で、職人の数も増え、技術が向上した。西洋の甲冑などと比べると断然、軽くて動きやすそう。一刻を争う戦場で、紐を結わくタイプの武具をささっと着けられるのは、指先が器用な日本人ならではという気もするし、日本人と紐は相性がいいみたいだ。実用面を支えただけではなく、兜や鎧に「揚巻(あげまき)結び」という飾り紐を着けて縁起をかついだという。

 

目の前でその形を結んで見せてくださった

 

一見、同じ形に見えるけれど、上は「人型」、下は「入型」といって真ん中の結び目の方向が逆になっている。通常の社寺宮廷の儀式などでは入型を使うのだが、戦場では敵や矢が入ってくることを除ける意味をこめて、それと逆の人型にする。ひとつの武具に実用の紐と、形式的な紐が備わって、もう神頼みというより紐頼みの戦というかんじだ。

 

ある結び方教室に参加したとき聞いたという話も、とても興味深かった。組紐と「結ぶ」という行為は密接な関係にあるけれど、これと音の近い言葉に「ムスヒ(産霊)」があり、この「ムス」は「苔生(む)す」などと同じく「産まれる」という意味を持つ。これは神道の考え方で、なにもないところから万物が産まれ、またその命が繋がっていくことをも意味するそうだ。冠婚葬祭や神事ではしめ縄、水引、リボンなどの「結び目」はいまでも普通に使われているし、紐を結ぶ行為に命を讃えるとか、祈りの気持ちがこめられているのは、なんとなくわかる。話を聞きながら、最近参加したダンスのワークショップで、二人一組で紐の端と端を持ってたるませないように動くというのがあって、相手の空気を捕まえるのに紐がとても役に立ったのを思い出した。「組紐とダンスって似ている気がする」などと唐突なことを口走ったのだけれど、能勢さんは「あ、それはあとで見ていただく作業場で、紐を組む機械の動きがまさにダンスをしているような動きというか。もっとそれを感じられるもしれません」とすんなりと受けてくださる。組紐みたいに柔軟な方なのだ。

 

出していただいたお茶のコースターも、さすが組紐

 

 

こちらの工房は大きく工場、作業場、教室の3箇所に分かれている。工場には編み方の異なる30種類以上もの製紐機がずらりと並んで圧巻。この機械も結構な歳月を経ていて、ローラーと歯車とハンドルで動く。油を含んで鈍く光る鉄の味わいがいい。言われた通り、ダンスフロアをクルクルと回転するみたいに動く。真ん中に紐が集まって美しい組紐が生み出される様子は、生き物のようにもみえてくる。この機械を作る会社も少なくなって、なかなか修理に出せないので自分たちでメンテナンスも行うのだそうだ。機械任せでハイ、終わりではない。

機械にかける糸の下準備。糸巻き作業中

こちらも糸の下準備。糸を縒る作業中

右へ左へ回転しながら組まれる色とりどりの紐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の小さな作業場では、小物を作る人、試作品を作る人、伝票管理をする人、集配の袋を提げて戻ってくる人、それぞれご担当作業の真っ最中で、朝一番忙しい時間帯にお邪魔してしまったのに、みなさん気持ちよく挨拶してくださり、作りかけの作品を見せてくださったりと温かい。

最後に教室にお邪魔した。昔ながらの手組み道具のカランコロンという木の軽やかな音がして、垂れた糸がカラフルで楽しそうに見えるけれど、設計図を見ると「???」読み解くのも簡単ではなさそう。

織機に似た高台。人が台の中央に座る

設計図・・・

可愛い丸型の台

 

 

 

 

 

 

 

 

この教室で技術を習得した地元近隣の住民の方々に「このデザインのものだったら○○さん」というようにその人の時間と技術に合わせてスケジュールを組んで仕事を分担し、材料の配布と出来上がった製品の回収に回る。「昇苑くみひも」さんの商売は、地域の方々の協力なしには成り立たないという。

 

春には組紐体験教室ができるように倉庫を改装準備中とのこと。ぜひ参加してみたいです。「昇苑くみひも」のみなさま、ありがとうございました!

「和の手ざわり」は、今月24日頃更新予定です。

 


みたてる心

川口美術 さんに教わって昨年秋訪ねたみたてさんは、和花や山野草、花を生ける器を中心に扱われていて、四季折々の山野草の息吹を感じるお店。見たことはあっても名前を知らない枝や草花が、切り方、生け方、器、空間・・・などの“みたて”でぐっと存在感を増す面白さ。訪れるたびに新鮮な驚きと感動があります。

新春のしつらえも見事です

 

こちらで開催される展示や教室も、花にまつわる興味深いものばかり。 先月、「市川孝さんの花遊びの道具展」の期間中に、江戸期より代々日本古来の植物染めをされている染司よしおかの吉岡更紗さんを講師に迎えての「餅花つくり教室」に参加してきました。

市川孝さんの花器、とりどりの表情

 

お正月のこの季節デパートなどでつくりものの紅白の玉のついた枝はよく見かけるけれど、本来餅花は小正月に五穀豊穣を祈って飾るものだそう。食べられるほんとうの餅を使ったものは、今回初めて見た。というかいままで気づいたことがなかった。店主の西山隼人さんが用意してくださった紅葉、ねじき、山香ばし、木瓜(ボケ)などの中から好きな枝ぶりのものを選び、お餅を小さく丸めてつけていく。

この日は偶然にもチルチンびと広場にも登場いただいていた藤かご工房紡ぎさん、また京東都さんや万年青さんなど、ものづくりやお店をされている方ばかりが集まってみなさん手際がいい。わたしは一番シンプルな木瓜を選んだのに餅が乾いてくっつかなかったり、形がいびつだったり不ぞろいになったりと苦戦したけれど、途中お餅を食べたりしながらの作業は楽しかった。

仕上げに、紅白交互になるように餅に紅をひとつ置きに塗っていく。吉岡さんが持ってきてくださった本物の「紅」は、広大な紅花畑からわずかしかとれないとても貴重なもの。「染司よしおか」さんは、東大寺のお水取りで使われる椿の和紙を納められているそう。実物を見せていただいた。

「植物色図鑑」でも、植物の生む色がとても神秘的で、繊細で豊かであることを毎月教えていただいているけれど、じかに見るとまた一層深く心を捉える気高さがある。植物染料には漢方の役割もあって、たとえば紅は血行をよくしたり婦人病の予防にもなり、昔の上流階級の女性がよく貝殻に入った口紅を薬を塗るように薬指でとって塗るので別名「紅差し指」とも言われるそう・・・吉岡さんの植物と色にまつわるお話にはまだまだ引き出しがあるように思えて、またゆっくりお話を聞いてみたい。映画「紫」も気になる。

花のない季節に、餅を花にみたてて豊かな一年への祈りをこめる「餅花」。またひとつ日本のたいせつな習慣を教わりました。みたてさん、よしおかさん、ありがとうございました。

木瓜の枝には、先ごろ花が咲きました。