山陰の旅  - 鳥取編 -

翌日、鳥取へ向かった。松江からは特急で1時間半ぐらい。まずは鳥取たくみ工芸店さんにお邪魔した。こちらは、鳥取で医師をしながら民藝活動家として幅広い分野の工芸品の作り手を育て「鳥取民芸の父」と呼ばれる吉田璋也氏が、1932年に開店した日本初の由緒正しき民芸のセレクトショップ。山陰を中心とした各地の陶芸、木工、金属、ガラス、染織、かご、和紙、人形などが並んでいる。なかでも2012年に96歳で亡くなられた加藤廉兵衛さんの北条土人形に惹きつけられた。

神話や民話をもとにしたという人形たちの、なんともとぼけた表情の可愛らしさは一度見たら忘れられない。とても残念なことに後継の方もいないので、もう残された人形たちもほんの僅かとのこと。

羊を一匹、連れて帰った

 

お隣の民藝美術館は、職人さんたちが仕事のお手本にできるようにと設立したもので、吉田氏が国内外で集めた民芸品など展示物はもちろん、建物もすみずみまで素晴らしい。自らデザインしたという椅子、柱に掛けられた額、組子障子やスイッチカバーに至るまで「ていねいで、美しく、実用的な手仕事」を広め、後世に残そうという情熱と美意識が息づいていた。

お昼、チルチンびと広場のイラストを描いていただいた西淑さんに紹介してもらった食堂カルンさんに行く。古い一軒家を改装した、のんびり、ゆるいムードで心地よく過ごせる。ライブやイベントなどのチラシもたくさん置かれていて、周辺の人から愛されている感じがわかる。

こちらは、以前中野無国籍食堂カルマという、もう中野北口で33年という無国籍料理の草分け的存在のお店で働いていたご店主が、3年前に鳥取に戻って開店したお店。カルマさん仕込みのスパイスが効いた本格派アジアンごはんが美味しかった。「お向かいの上田ビルと、近くの森の生活者さんというベーグル屋さんにも、もし時間あったら行ってみてください」と教わったので行ってみた。

昭和なムードの上田ビル。この2階に3軒のお店が集まる。santanacotoyaさんは古いものや器、家具、作家さんのものなどを扱うお店。

borzoi recordさんは、中古と新品のcdやレコード、本を扱うお店。

どちらも、そんなに広くない空間に、気になるもの欲しくなるものがいっぱいあって、ご店主のセンスが伺われるお店だった。一緒にイベントをすることもあるのだとか。楽しそう。近くにこんなところがあったら通ってしまう。もうひとつの「うわの空」さんのドアに「森の生活者でミーティング中」と貼ってあった。商店街を少し歩いて、こちらもレトロなビルの2階にある。

ご店主にチルチンびと広場のカードを見せると、「あ、淑ちゃんの絵!」と、ほぼ顔パスで打ち合わせ中のみなさんに紹介してくださった。偶然、この日はカルマの店主・丸山伊太朗さんが東京からやってきて「うわの空」のこれからについて話し合っていたところだった。この空間には肩書きはなく、周辺の人たちが集まって自由に楽しく面白く育っていく予定の、未知数の場所なのだそうで、どこかチルチンびと広場と共通している。もちろん西さんの絵のおかげもあるのだけれど、言葉で説明しづらい部分をすんなりと感じ取ってくださった気がした。

駅の方へ戻ってgallery shop SORAさんを訪ねた。スタッフの女性が驚いた顔で「ちょうど『チルチンびと』を読んでいたところです!」と手にした読みかけの『チルチンびと』を見せてくださった。なんと。こちらでは、山陰の若手作家さんを中心としたクラフトが集まっていて、これからの人を育てようというご店主の願いを感じた。鳥取の人たちは作家さんでなくても普通になにかを作る人が多いという。手芸関連のイベントをすると朝から階段のところに行列ができるのだそう。やはりものづくりが息づく土地柄なのだ。


最後にもう少し時間があったので、鳥取たくみ工芸店で教えていただいた万年筆博士さんへ。こちらには全国から、世界からも万年筆を求める人がやってくる。自分の書き癖の診断をしてカルテをつくり、そこから万年筆づくりが始まる。「私たち自らデザインすることはありません。それぞれのお客様に合わせた長さや重心、材料をもとに設計をして、使い心地で改良したり、それを他のお客様がまた取り入れて新しいデザインが生まれたりしていいものが残っていく。まさしく用の美です」と。ここにも、暮らしを美しくするものづくりの精神があった。


短い時間だったけれど、ふつふつと沸いている鳥取モノづくりパワーを感じた旅でした。

今回はお訪ねできなかったけれど鳥取は地方自治体も頑張っていて、鳥取県文化観光スポーツ局観光戦略課さんの活動も柔軟で、精力的です。4月17日~は京都ロクさんで「とっとり物食展」が開催されます。