2013年7月4 の記事一覧

集める話

 

先日、京大売店での『標本の本―京都大学総合博物館の収蔵室から』(青幻舎)刊行記念トークイベントに通りがかって飛び入り参加。 『標本の本』は一般人には立ち入ることのできない京大博物館の地下収蔵庫、その約260万点といわれる標本の一部を紹介したビジュアル本だ。 煌めくような好奇心と読者代表としての目線で質問や感想を投げかけていく著者の村松美賀子さんと、ヒューマニズム溢れた研究者であり、博物館館長である大野照文先生のお話はとても面白く、貴重な地下収蔵庫をスライドでたっぷり見せてもらえて、あっというまの1時間半だった。 京都大学はとくにアカネズミの研究がさかんで、なんとその標本数は1万体にも及ぶそう。 のしイカのようにぺたんこにされ収納されているおびただしい数のネズミの標本・・・「それだけの命を奪っているという覚悟をもって研究しています」「なんでも捨てない。どんな紙切れでも、小さなもの、欠片でもとにかくとっておく。使わなくなった昔の研究道具もすべてとってあります」「記憶に残るように、学生は研究対象をまず手でスケッチします」「やっぱりひとりでいると、ときどき怖いですよ。いわば膨大な数の亡骸と共に地下の密室で過ごしてるわけだから。でもね、案外この人たちは僕のことなんて気にしてないんじゃないか、お互い楽しく(標本同士)会話でもしているのじゃないか」「生命誕生以来、38億年分の進化の歴史が自分の中にあると思うと、ちょっと自分が今までと違って見えるでしょう」・・・大野先生の言葉はどれも印象深かった。

 



別の日、京都国立近代美術館の「芝川照吉コレクション展」を見た(6/30で終了)。芝川照吉は、明治・大正時代に毛織物貿易で巨万の富を築き、「羅紗王(らしゃおう)」と呼ばれた大阪の実業家だそうだ。それだけ聞くと金銀ギラギラの金満オヤジを彷彿してしまいそうだが、この人は金に物を言わせる収集家ではなかった。心から作家とその作品を愛し、若い芸術家の活動を支え、かの岸田劉生が困窮していたときも、物心ともに支援し続けたりと、大正期の重要な美術史を支えた。関東大震災や太平洋戦争の戦禍などで多くを消失してしまったとは本当に無念だけれど、残されたもののコレクションでもこの方の趣味の良さ、作家を愛し作品を愛した気持ちは強く伝わってきた。藤井達吉の工芸品とか・・・デザイン力ハンパない! 木の陰から鹿のお尻だけが見えたお盆とか・・・たまらない!欲しい!! よく使い込んでいたのがわかる滑らかさ、鈍い光沢、傷。好きで集められ、ちゃんと大切に使われていたものの磁力はすごいと思った。コレクション・ギャラリー も充実していて、とくに野島康三の細かい鉛筆画のような版画のような質感(ブロムオイルプリントという手法だそう)の写真部屋の存在感は圧倒的だった。




のちに歴史的な意味をもつような蒐集には、知力、眼力、経済力に整理整頓力、いろんな力が必要で大変そう。そんな力のない私でも集められて、美しくて崇高なもの。ありました。

墨文字と朱の印が美しい、御朱印

 

お参りした時に御朱印所でお願いすると書いてくださる。御朱印は寺社の御印であり、御本尊や御神体の分身といっても過言ではないとのこと。スタンプラリーではないので集めることが目的になっては本末転倒と心に刻みつつ、寺社巡りが一層楽しみになった。