すだれは遠くなりにけり
アツイアツイアツイ。この日射しを遮るのに、近ごろは、ゴーヤのカーテンなんぞを育てたりするようだが、すだれはなぜ、カゲが薄くなったんですかね。すだれ屋さんが、こんな話をしていたのを読んだことがある。(中公新書『商売繁盛』から)
「いまはもう、古い本式のきまりを知ってる人は少なくなって —。夏、半すだれっていって、ちょうど半分に折ってかける。冬は陽が低いからぜんぶおろす。そんな当たり前のことだって知らない人もいるからね。いえ、すだれってもんは、一年中かけといていいんですよ」
「もう、子供のときから。゛ひとくち千枚゛っていってね、1種類を千枚っつ編まされた。お袋が、もうほかのやってもいいでしょ。おやじが、まだだ! そんな調子でなかなか次のに進ませてもらえない」
「仕事がいちばん楽しい。立って仕事ばかりするんで足が平べったくなって。十文なのに十文二分を履くんですよ」
こういう職人噺が消えていくのも、淋しい。
青すだれむかしむかしの話かな という万太郎の句があるという。