2014年8月14 の記事一覧

九州へ行ってきました その2 別府ヤブクグリイベント編

 

夕方、宿に戻った。山田別荘は、昭和5年に保養別荘として建てられたものを戦後温泉旅館として衣替えした、古き良き時代の面影が残る優美な宿で、女将さんの山田るみさんは初めて会ったのにただいま! と言いたくなるような、朗らかで気さくな雰囲気の方。

ロビーに通されると、和洋折衷の瀟洒な内装で、まさしく別荘に来たようなちょっと贅沢な気分になる。テーブルではすらっとしたかっこいい女性がせっせとなにか書いていて、朗読会のための書き下ろし小説を推敲中の石田千さんだった。小説が産まれる現場にいる!と密かにテンション上がりながら会場へ行くと、ヤブクグリの牧野さんや黒木さん、原さんが設営に忙しく、どこにいても邪魔しそうなので内湯に入った。やはりとても熱くて、でもこの熱さが早朝から歩き疲れて朦朧とした気分をさっぱり流してくれる。そうこうしているうちに、お客さんは続々とやってきてお座敷は満席になった。

前半の書き下ろし小説「べっぴんさん」の朗読会は、私が初の別府で感じた、懐かしさと温かさに満ちた街の印象がそのまま再現され、改めてこの場所にゆっくりと錨をおろしたような気持ちになれた。これはどんなに詳しく写真やメモで旅の記録をとどめても味わえない感覚で、改めて小説や朗読は、人間に必要な心の栄養なんだなと思った。石田千さんの声は、ご自身の小説と同じトーンで、落ち着いてさらりとしているのに、どこかはにかむような初々しい感じもある。地元の男女役の、佐藤正敏さんと時枝霙さんの御二方も、温かさがあって役にぴったりでとてもよかった。朗読が終わると、感動に満ちた静かなため息が会場のあちこちで漏れ、別府の人たちこそが小説に深く共感していたことがよくわかった。千さんも別府は初めて、かつ、私よりも街めぐりの時間が圧倒的に少なかったはず。なのに場所や人をこんな風に立体的に捉えて、こんなに豊かな短編小説に再現できるなんて。こういう人が存在しているんだなあ。涙が滲んできた。

 

休憩中。女将さんからこんな素敵な御膳が全員へ

 

後半の柳家小春さんのライブは、素晴らしく粋で、可愛くキレよく艶っぽく、心から日本人でよかったと思った。さっきまで言葉に感動していたくせに、もうこの歌さえあれば大丈夫だね・・・と、また涙が滲んできた。

イベントの余韻を引きずって、打ち上げ、二次会とも、昭和風情の漂うお店で食べ、飲み、歌い、気持ちよく酔っ払うことができました。

 

翌朝、石田千さんがBEPPU PROJECTの平野拓也さん、熊谷周三さんのお二人の案内で朝ご飯ツアーに行くのに便乗した。「友永パン」は創業大正5年、大分県で一番古いパン屋さん。静かな一角に整理券が配られるほどたくさんの地元の人が並び、老舗というだけではない、こちらのパンの普遍的な美味しさを物語っていた。

 

詳しい別府温泉情報をくれた豊島さんからもおすすめがあった「バターフランス」をまず確保。基本の餡ぱん、そしてすすめられるがまま、シンプルなコッペパンみたいな「味付けパン」も買い、次に「杏」という老舗のかまぼこやさんで「お魚コロッケ」を買った。別府港獲れたての新鮮な魚のすり身に、枝豆や玉ねぎなどを練りこんで衣をつけて揚げたもの。さきほどの味付けパンを手で割り、こいつを挟んでパクリ。ウマい!!美味しいものは地元人に聞くべし。海辺の堤防での朝ご飯は、子どもの頃の夏休みに戻ったようなひと時だった。だいぶ満腹だったけれど、朝ご飯ツアーは続く。

昨日素通りした「地獄蒸し工房 鉄輪」へ。人体を蒸すのではなく、自分で食材を選んで温泉の蒸気で蒸して食べることができる。野菜は甘く、イモ類はほくほく、ゆで卵はちょうどいい半熟。卵の殻をむいたり、カニの身をほじくるのに必死で最後には無言になって食べた。食後は食器と蒸し器を洗って、片づける。キャンプに来た気分。ここで温泉も飲める。ちょっとしょっぱくて不思議な味がした。「このお湯と、ここで蒸した野菜でカレーを作ったらきっと美味しいよ」と千さんが言い、他の二人は「うーん、そう、かも?」と答えた。別府温泉カレー、試してみたい。

たった2時間とは思えないほど充実の、楽しい朝旅だった。平野さんと熊谷さんは、それぞれ茨城、北海道のご出身だけれど、別府を心から愛する最高の案内人でした。山田別荘に戻り、おかみさんや皆さんにお別れして、日田へ向かった。 みなさま、ありがとうございました!

 

日田編へ続く