2014年3月24 の記事一覧

続・「きいち」のぬり絵

続・「きいち」のぬり絵

たまたま、きいちのぬり絵を見て、その画家の蔦谷喜一さんにお目にかかったときのことを、思い出した。ご自分のぬり絵に、色をぬったことはありますか、と私は訊いた。「一度もない。ぼくは、ぬり絵を描いていたんじゃない、少女画を描いていたんですよ」と蔦谷さんは、言った。しかし、少し悲しそうに、「非難されたこともありました」と、言った。「絵画教育の上でマイナスになる。この絵は俗悪だと。そして、大家といわれている画家が、ぬり絵を出したんです。大々的に宣伝したんです。だけど、売れなかったらしい。だって、ぬり絵は、教育じゃなくて娯楽なんですから。与えよう、教育しようでは、ムリなんですよ」。

このインタビューが、雑誌に載ったあと、ある画家から、一通の手紙をいただいた。そこには、激しい調子で、なにが大家だ、なにが教育だと、蔦谷さんを擁護する言葉が激しい調子で書いてあった。私は、いま、そのことも、思い出した。蔦谷さんは、最後にこんなことも言った。「振り返ってみて、自分のやってきたことがそれほど価値のないことじゃなかった、よかったんだなあと、いま思うんですね。人の気持ちのなかに、少しでも残っていてくれたら、救われますよ」。蔦谷さん、残っていますよ、みんなの気持ちのなかに。