パンの小耳
壷井栄さんも、“ 耳好き” だったらしい、という話を小耳にはさんだ。
…… 羊かんだの豆腐だのの、まん中のよいところより、耳のかたいところの方を私は好む。同じようにパンの耳も大好きで、こんがりと焼いたのにたっぷりとバターをぬって食べる。パンの耳はハダが綿密でなかなかバターを吸収しないので、バター・ナイフでぶつぶつ穴をあけてバターを吸いこませる。……( 『 壷井栄全集』 11 ・ 壷井栄著・文泉堂出版)
小説『二十四の瞳』や、その映画で、壷井栄さんは、おなじみだろう。これは、「パンの耳」と題したエッセイである。このあと、耳は家中で奪いあいで、時には順番制をとったこと、こんなにみんなが好むのは、希少価値のせいかもしれない、などと書いている。
映画『二十四の瞳』は、いまだに、あの、ひとり修学旅行に行けなかった子は、可哀想だったなどと、あるシーンが話題になったりする。その作家にして、この好みあり。なんだか、うれしいじゃないですか。