2015年12月10 の記事一覧

暖かい冬のために〈後篇〉

ビブリオ・バトル

『チルチンびと』86号  特集「火から始まる冬支度」にちなんで、ビブリオ・バトル― 暖かい冬のために。後篇。

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Tさん。 〈このごろ朝が寒いので床の中で寝たままメリヤスのズボン下をはき、それから、すでに夜じゅう着たきりのシャツの上にもう一枚のシャツを、これも寝たままで着ることを発明して実行している。〉発明ですって。書いた人は、寺田寅彦。『柿の種』(岩波文庫)の  ー  曙町より、から。ご存知、物理学者で、エッセイスト。少しあとには、この朝は頭が悪く、右の脚が、ズボン下の左脚に入ったりする、とかで、短い一本一本に、独特の味がある。

Sさん。 物理学者の目、といえば、『物理の散歩道』(岩波書店)も同じ流れ。ロゲルギストという7人のグループが、語り合う。たとえば、その3巻には、「防寒夜話」。〈寒い地方 ー 東北だったかな ー  で、ハダカで寝るところがあるんだってね。もちろん、ごろ寝じゃない、ハダカでふとんにもぐりこむという意味だ。その方がねまきを着るよりあたたかいという……。〉で始まり、話は空気層に。そして、ハダカで寝ると本当に暖かいかを、論じる。これも、ユニークな味ですよ。

Uさん。 物理学者の目が続いたから、文学者の目も。『正弦曲線』(堀江敏幸・中央公論新社)に、「昼のパジャマ」という章があります。〈パジャマという衣装を夜にさえ身につけなくなって、もう三十年以上になる。昼寝は普段着のままがいちばん気持ちよいと思うので、パジャマどころか着替えも論外。夜は夜でいつの間にか寝ているというのが常態だから、 ……〉と読み続けるのを、遮るSさん。それ、面白そうだけど、今回のテーマは寝る話ではないからね。冬眠なら、いいけど。

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『チルチンびと』86号  特集「火から始まる冬支度」は、12月11日発売です。お楽しみに。