2015年9月22 の記事一覧

伊野孝行さん

わたしと街の物語その1 伊野孝行+大河原健太「神保町とロンドン」

イラストレーターの伊野孝行さんに、初めて会ったとき、彼はセツ・モードセミナーの生徒だった。ある日、セツの展覧会に行くと、まわりの絵とは違う雰囲気の絵があった。サムライが描かれていた。それが、伊野さんの作品だった。紹介されて、話をした。「ぼくはアルバイトで、神保町のKという喫茶店でコーヒーを淹れています」と、その店のチラシをくれた。

それから何十年。かくも長きご無沙汰。一昨年、Kへ行く機会があった。ふと、店のひとに「伊野さん、まだいますか」と訊くと「ハイ、呼んできましょうか」。すぐに現れた彼は、短く刈った頭に手をやって「実は、今日でこの店をやめるんです」と言った。最後の日に訪れた、という偶然。明日から、一人でやっていくという決意。セツと神保町の間に流れた時間を思った。