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屋久島 田畑を巡る旅 その2

 

翌日も晴天。大きなバナナの木が見える食堂で美味しい朝ご飯をいただいた。サバのなまり節を薄く切って出汁をとったお味噌汁、飛魚の一夜干しとつけあげ、新鮮な野菜。ヒュッテフォーマサンヒロは滞在中ずっと泊まっていたいくらい居心地のいい宿だった。帰り際にこちらの奥様が京都出身だと知って、屋久島との距離が縮まった気がした。

この日は先日噴火のあった口永良部島から避難してきている皆さんと一緒に、田植えとカヤック体験をするイベントがあり、田植え指導に呼ばれていた本武さんにくっついて参加させてもらった。束でなく一本ずつ苗を植えていく方法で、うまくいくとこの一本から3膳分ぐらいのお米がとれると聞いて驚いた。草や虫や微生物の力を借りる自然農の田圃は、台風を察知すると自ら成長を遅らせたりして災害にも強く、長い目で見ると効率がいいのだそう。素足に泥の感触が気持ち良かった。「屋久島での避難生活はとても恵まれていて本当にありがたいけれど、一日も早く口永良部島へ帰りたい。帰ったら、故郷でこうやって、自然農の田圃を復活させていきたい」切実な願いを聞いて、胸が詰まる。

田植えのあとは川へ行ってカヤック体験。島育ちの子供たちは、運動神経がいいのかすいすいと上手に大きなカヤックをあやつる。私たちも便乗してすっかり夏休みの小学生気分で楽しんでしまった。ここで皆さんとさよなら。子どもたちはみんな暑い中元気でよくしゃべり、笑い、人懐こくて可愛かった。短時間お邪魔しただけだったけど、少し名残惜しくなる。

お昼は、ワルンカラン というアジアン料理のお店に行く。ショーケースに並ぶ色とりどりのおかず。牛小屋を改築して作ったシックな店内で、朝早くから一人で作っているという十数種類のアジアンおばんざいをいただいた。凄いなあ、と思っていたら、こちらのご店主も京都のご出身。姉妹都市みたいな繋がりっぷりだ。

お昼の後は、冷たい水が心地よい川で泳いだり、海に行って珊瑚ひろいをしたり。おやつに本武さんが冷凍タンカンを用意してくれた。染みわたる美味しさ!!強い陽射しで乾いた喉に、これ以上のデザートはなかった。

それから屋久島で最大級という「大川(おおこ)の滝」に行き、先日までの豪雨の影響で一段と激しいという滝の流れに、すっかり言葉を失ってしまった。

「明日の朝ご飯用にパン買ったらいいよ」と、すすめられて「樹の実」 さんへ行く。ちょうど私たちの朝ご飯分ぐらいを残し、あとは売り切れ状態だった。ここで焼いているピザも、とてもおいしいのだそうだ。テラスでアイスコーヒーや野草茶をいただく。庭にミカン畑があり、向こうに海。この島はどこにいってもこういう風景が広がっている。贅沢だなぁと思う。

この夜は共有キッチン付宿に泊まって自炊。本武さんの作ったジャガイモや獅子唐、生姜と、自然食品の店みみ商会さんで買った食材を使う。みみのご店主は27年間「医食同源」をモットーに、良質な食材を扱い続けている。小さいけど、調味料からなにから欲しいものがちゃんと手に入る品揃えだった。

冷房の全く効いてないキッチンで、もうもうと熱気に蒸されながらビール飲みながらごはんを作った。凄腕料理人ミヤビちゃんの技を間近で見られると思ったけれど、私がサブジひとつ作るのにジタバタしている間にすいすいと、玄米をいい具合に焚いたり、ひじきとごぼうのかき揚げやら、きゅうりと切り干し大根のナムルやら美味しいものをものすごい速さで次々に作りだしていて全然目が追い付かなかった。晩御飯を食べながら農の話、未来の話、その他いろいろ、話した。夜も更けて再び平内海中温泉へ。二日目にして全然感動が薄れない。月は昨日よりもう少し太ってきて明るく、昨日より少し近くに迫った波の音が強く聞こえた。

 

つづく

 

 

 

 


屋久島 田畑を巡る旅 その1

 

美味しい野菜や調味料が揃うと、たいがい心が落ち着く。素材が美味しいと手間も時間もかけずに美味しいものが出来上がるので、料理が気軽で楽しいものになる。ご近所の八百屋さん、スコップ・アンド・ホー さんはそれを叶えてくれる頼もしいお店で、それは店主の井崎敦子さんが作る雰囲気でもあり、この野菜はこんな人が作ってて、こんな味で美味しいよ、というのを本当に楽しそうに伝えてくれるので、よりいっそう食べることが楽しみになる。お店で出会う人も類友なのか面白く、野菜を買わない日でも笑いを求めて寄ってしまう。

そんな面白敦子さんが、ある日しみじみ「野菜を届けてくれたり、美味しいごはんを作ってくれたり、いろんな人たちに支えられてほんまに幸せやし嬉しいしありがたいことやなぁ。その人たちのことをもっと知ってほしいねんなぁ」と言うのを聞き、ぜひ書いてほしいとお願いしてはじまったのがコラム「おいしい人々 スコップアンドホーのご縁つれづれ」 だ。第1回は京北の若き料理人、秋山ミヤビさんのことを愛情あふれる目線で綴っていただいた。次にどうしても紹介したいのが屋久島で自然農をしている本武秀一さんで、ポンカンに衝撃を受け、タンカンと安納芋のあまりの美味しさに感動して、2年越しで会いたかった人だという。長らく京北の畑と香川の実家以外は移動していないというミヤビさんと、「たねだね在来種研究所」 の砂本有紀子さんという、畑や種に関わる人々も一緒に。ほぼ初対面に近い4人で屋久島への旅が始まった。

台風が通り過ぎるかどうかという中、無事に飛行機も飛び、伊丹から屋久島へは直行便で約1時間半とあっけない。空港に着くと晴れていて、いい旅になる予感がした。迎えに来てくれた本武さんは、陽の光をたっぷり浴びてぎゅっと引き締まって身軽そうで、ミヤビちゃん曰く、ご自身がつくるタンカンにもどことなく似た雰囲気。几帳面な字で丁寧にスケジュール表を作っていてくれて、有難いことにこれからの4日間お付き合いくださるという。まずは本武さんのご友人だっちゃんのお店「ジャングルキッチン近未来」に連れて行ってもらう。カレーをいただいた。美味しい!

お店はすべて手作りで、赤土と木の壁が呼吸しているような気持ちのいい空間で、内装も拾ったものなどで作ったとは思えないほど細かい手仕事がしてあってどこを見ても可愛い。お昼から賑わっていて、会う人会う人知り合いで、まだオープンしたばかりというのに、早くも地元の憩いの場になっていた。

 

屋久島は丸い形で、70年に一度という大雨や長梅雨で通行止めになっていたけれど、島を車でぐるりと一周すれば約3時間だそう。鬱蒼と濃い緑、険しく突き上げるような山、反対側をみれば海、ダイナミックな風景に圧倒されながら、この日の宿ヒュッテフォーマサンヒロ にチェックインした。

部屋にはデッキがあり、庭に大きなバナナの木があり、いかにも南の島の風情。部屋に備え付けのノートに「ごはんがとてもおいしかった」という記述がいくつもあるのを見つけて、早くも翌朝の朝食が楽しみな、食いしん坊4人組なのであった。

 

晴れている今日のうちに田畑を見学してしまおう、ということで高畑にある田圃をみせていただいた。向こうには大海原。振り返れば雄大な山。あぜ道に生えている里芋や生姜も大きく生命力に溢れ、「うわぁ~なんだこりゃ~こんなとこで畑できるんかぁ~」と秋山ミヤビサン、感嘆の唸り声を漏らす。

すこし離れたところにあるタンカンポンカン畑は、自由にうねうねと踊っているような枝が伸びた背の高い木が、山の斜面に思い思いに生えていて、巨大な里芋の葉が茂り、遠くには険しい山々がそびえて完璧なシルエット。すこし日が暮れてくるとなんともいえない情景になる。

無農薬の田圃と畑を12年の月日をかけてゆっくりと、しかし着実に創り上げている本武さんの言葉は、どんな素人をも納得させる、わかりやすいものだったけれど、なにせ畑をやっていないどころか部屋にある観葉植物ですら枯らしてしまう私は、ただこの絶景を眺めて「きれいだなあ・・・」と呆けるしかなかった。食べ物を作る人は自然と共存して賢く優しく力強く、食べるだけの私は本当に軟弱だと感じた。そんな私ですら、こんなところで農業をやってみたい、と夢を抱いてしまうような、土と水の力を感じさせる場所だった。


夜は安房港に面した地元の定食屋さんで、トビウオのから揚げやサバ節で出汁をとったうどん、焼酎など土地の物をいただいていい気分になり、そのまま平内海中温泉へ。ここがまたワイルドで、海から湧き出る温泉に朝晩の干潮前後の2時間のみ入れる混浴の温泉。「水着禁止」と書かれている。脱衣場もない。岩場で人目を遮りながら服を脱ぎ身体を隠すものをざっと纏って湯に入るのだが、星空の下、波の音を聞きながら温泉につかっていると、そんな裸だの混浴だのどうでもいいことに思えてくる。温かく、静かで、ふっくらした月の光が神秘的で、いつまでも去りがたい。夢じゃないかな?と何度か思った。帰りには海に向かって、空に向かって、ありがとうーという思いでいっぱいになる。

初日にして、明日帰っても悔いはないというぐらい濃密な一日が終わった。

つづく

 


大原生まれの赤紫蘇で

朝、ご近所の方に大原に行くしいかへん?と誘ってもらって市場へ行くと、シーズンの赤紫蘇がどっさり。背が高く、葉っぱも大きくてぴんとした立派な赤紫蘇の束を、みんな抱えて帰っていく。農家のお父さんの話によると、不思議なことに大原で作った苗を他の土地にもっていっても、大原でつくったものほどは香りも味もしないんだそうだ。昔から繰り返し赤紫蘇をつくってきたこのあたりの気候風土によるものらしく、「ここのが一番や(えっへん)」と言われ、思わず梅も干していないのに買ってしまった。京都に来てからいろんな人に自家製紫蘇ジュースをごちそうになってきたけれど、いよいよ自分でつくるときが来たか。なんて構えるほどのこともなく、作り方はいたって簡単。

2リットルぐらいの水を沸かして紫蘇を10分~15分ぐらい煮出し、葉っぱが青色になったらザルに取り上げて、ギュギュっとのこり汁を絞り、その紫蘇液にお砂糖(今回は喜界島のショ糖)250gぐらい、米酢300ccぐらい入れて煮て冷ます。(すぐ飲みきるつもりでお砂糖少なめ、自分好みの目分量です)

ソーダ水で割れば、すっきり爽やか、ほんとに美味しい!暑苦しい夏を乗り切れそうです。

 

 

 


暮らしの記録を記憶する

日本各地の暮らしを見つめる冊子「ジャパングラフ」のコンセプトショップ「ナナクモ」さんで、「はりけん」による滋賀県朽木村針畑集落の記録映画「草鞋づくり」と「ベベ」を観た。

「はりけん」とは1974年から針畑集落の調査取材を行ってきた京都精華大学名誉教授の丸谷彰先生率いる「針畑生活資料研究会」のこと。丸谷先生は、はじめは村の人と道路で立ち話をしながら、だんだん農作業の所に入っていってそれを手伝ったりしながら、縁側でお茶を飲みながら、しまいには家の中に入って呑みながら・・・と数年がかりで話を聞いていく、フィールドワークとはそうしたものだと学生さんたちに言ってきたそうだ。ゆっくり時間をかけて話を聞いてきたからこそ撮れた貴重な記録映画だ。人々の暮らしを淡々と撮り続けていて音の状態もあまりよくなく、方言もわからないから会話の内容までは聞き取れないけれど、映像だからこそ伝わる臨場感。当時の人の顔つき体つき、作業の様子や身体の動かし方がよくわかり、小柄だけど力強くて柔軟で張りのある「働く身体」に見入ってしまう。

 

1本目の「草鞋づくり」。もんぺ姿のお母さんたちは、すごいスピードで藁を縒り、一方の足に出来上がった紐をひっかけてヨガのようなポーズをしながら、しなやかに全身を使って草鞋を編んでいく。家族それぞれのサイズを体が覚えていて、足にぴったりのものを作ることができる。雪用、山道用、男女用・・・用途によって形も様々、一日十数足くらい作るのだそうだ。大変に高度な職人技のように感じるけれど、皆自前で作っていた。道具は最後にチョンと鋏で切るとき以外はほとんど使わない。身体が草鞋を編む道具になっている。そのリズミカルで柔軟な動きは見ていて心地よく、目が釘付けになった。昔は履物と言ったらこれしかないわけだし、遠くへ物を売りにいくときなどは履きつぶす分も含めて準備する。

 

2本目の「ベベ」は、電灯が引かれる昭和24年ごろまで使われていたイヌガヤの実から採る燈火用の油のこと。これを自分たちで採集し、使う分以外は師走の寒い時期に朝3時に起きて街へ売りにいく。これは女性の仕事で、若いお母さんは赤ちゃんを籠に入れて置いていき、道中お乳が張ってくると獣が寄ってこないように川に流したりしながら、片道25キロの峠の山道を、重さなんと50キロ!もの荷物を背負って越えて行ったという。映像の中で当時を語るおばあさんたちは「自分の時間なんてなかった。『ベベなんてなけりゃいいのになぁ』と思った」と笑っていた。他にも山ほど仕事があるわけだし、なんて壮絶な労働環境なのだ。でも昔話をする顔は、穏やかで楽しそうだった。

 

上映会の終了後は、先生を囲んで話を聞きながら朽木の特産品をいただいた。なれ鮨やへしこは独特の風味で、好きかと言われると微妙だけれど日本酒によく合った。この塩気と発酵具合が重労働には必需品だったに違いない。急速に消えつつある集落の生活文化には、人と仕事と衣食住が繋がり、自然と共生して暮らす工夫が詰まっている。シンプルで無駄がなく、必要以上に周囲を傷つけず、小さくても豊かで美しい暮らしを支えてきた知恵だ。足るを知る心をなくし、働くために身体を動かさなくなったら、忘れ去るのはあっというま。今、この記録を私たちは覚えておかなくてはいけない。学ぶべきことはこの中にある。40年ものあいだ集落を見つめ続けてきた、丸谷先生のそんな切実な思いが伝わってきた。

 

※7月10日、11日に京都・堺町画廊さんで上映会があります。詳しくはこちらから

 

 

 

 

 

 

 


冨田貴志さんの「夏の養生」のお話

冨田貴志さんの「暦と養生のお話」を聞きにスコップ・アンド・ホーさんへ。冨田さんは、大阪の中津商店街にある 冨貴工房を主宰していて、鉄火味噌や茜染め麻褌作り、畑作りや種の貸し出しなど、免疫力を高める衣食の自給のためのワークショップをしながら各地で暦と養生のお話会を開催されています。

季節の変わり目は前の季節を引きずって過ごすのでバランスが崩れやすい。来たる季節に備えて、陰陽五行の考え方に基づいた旧暦(太陰太陽暦)に合わせ、日本古来の食養生を取り入れて身体を整えるお話を聞きます。参加するのは4回目、春の養生ではお話とともに黒入り玄米茶、冬は鉄火味噌のワークショップを取り入れながら、ほぼ一年をひと巡りしました。陽気を補うための食材作りは長時間にわたり根気と気合が必要だけど、毎回充実し過ぎてあっという間に時間が過ぎてしまう。冨田さんの話を聞くようになってから、冷え症や肩凝りみたいな何気ない不調の原因こそ、ちゃんとつきとめておこうと意識しはじめました。病気や怪我をしたときだけじゃない、いつだって身体は健気に頑張ってます。五感を研ぎ澄ませて身体の声を聞き、心身ともに健やかに暮らすための養生。今回は夏の巻。

「暦(こよみ)」は「日読み(かよみ)」が訛ったものだそう。日を読み解くことが、身体の養生につながるのです。かなりざっくりだけど、言葉だけだとわかりづらいので図にしてみると、こんな感じ↓

てっぺんが一年で一番日が長い「夏至」。当然反対がわが「冬至」。その間に「春分」と「秋分」があり、春分と夏至の間は「立夏」、夏至と秋分の間は「立秋」、秋分と夏至の間は「立冬」、当時と秋分の間は「立春」。これは全季節に共通するけれど、夏の場合、立夏の少し手前に「土用」がくる。前の季節のフェードアウト、次の季節へのフェードイン、ここが備えどきという日です。立夏から立秋までを三等分して初夏、中夏、晩夏と分かれる。冬至から夏至に向かっては太陽光の量は増え、逆は減る。その軌道を追っかけるように少しあとから熱の量が増え、逆は減る。今は「中夏」。夏真っ盛り、光の量が一年で一番多く、ここから晩夏にかけて熱の量が一年で最大になります。

陰陽でいうと、夏至の今は最も陽気が強いとき。女性は元々体質的に陰気が強く、たとえば冷え症や貧血もそうだし、電磁波や放射能、化学物質、精製された食物や、添加物みたいなものも陰性に入ります。世の中的にも現代という時代は、断然「陰」の要素だらけなので、個体差はあれど、陽気を強くすることが身体のバランスを整えるのに必要だそう。ここで「五行色体表」という表が配られました。

一見さっぱりわからない。これは様々な自然現象や自然物を五つに分類した陰陽五行の考え方を表にしたもので、今回は夏に絞って詳しく解説してもらいます。この表の「五季(四季+土用)」の「夏」の欄をみると、「五臓」は「心」、「五腑」は「小腸」、「五色」は「赤」、「五味」は「苦」とあります。全身に血液を巡らせる「心臓」と、造血の役目を持つ「小腸」。「五行色体表」によれば、夏はこの血液に関する二つの臓器を養生するのに最適で、それに効くのが赤い食材と苦みのある食材(トマト、梅干し、八丁味噌、三年番茶、たかきび、人参、クコの実、塩、醤油、蓬、フキ、にがうりなど)。ちなみに「五香」のところには「焦」とあり、これは焙煎したもの、麻炭とか、黒炒り玄米など(但し動物性の焦げは除く)。これは「苦」にも通じそう。

 

カブの梅酢漬け、ズッキーニのフライ、人参のナムル…夏の養生に効く、赤、苦、発酵などをたっぷりとりいれたランチ

 

スコップ・アンド・ホーさん特製「夏の養生ランチ」をいただいて、午後は「腸」集中講座。身体を支える血液や免疫力を作り、心を支えるセロトニンを分泌し、気の出所である「丹田」のあたり、「第二の脳」とも言われる小腸は、夏ならずともケアしたい大切な臓器。腸の内側には、びっしりと絨毛が張り巡らされ、100種類以上100兆個の菌が住んでいると聞いたことがあるけれど、重さにすると1.5キロ分ぐらいの腸内細菌が住んでいるらしい。ちょっと怖くなる。大きく分けて善玉菌、日和見菌、悪玉菌があり、この3つがいい塩梅にバランスしていると、腸が順調に働いてくれる。そのバロメーターは、快便かどうか。便秘気味の人は陰性、下痢気味の人は陽性だそうだ。腸は体内にありながら、口から繋がり外界と直に接している唯一の臓器で、外から入ってくるあらゆる菌から身体を守ってくれているのです。なんて健気なんだろう。「腸さん、毎日ありがとう」の気持ちを込めて、常に腸内環境を良好に保ちたいものです。

腸内バランスを整える食べものは  1.酵素の多いもの(例:だいこんおろし)  2.発酵食品(例:梅干し、味噌、醤油、納豆)  3.繊維質(例:海藻、イモ類、穀類、果物、根菜など)。 これらがビタミンやホルモンをつくり、PHバランスを調整して活性酸素を除去し、免疫力が上がり、発がん物質や病原菌などの有害物質を吸収排泄してくれる。逆に避けたほうがいいのは、化学物質、添加物、動物性たんぱく質、乳製品、精白した砂糖や米、小麦など活性酸素を増やす食材。冨田さんおすすめの夏の養生レシピはとても簡単。自然薯を細く切って、大根おろしと納豆、ネギ、オクラとまぜ、醤油をたらりと垂らしたものをごはんにかけるだけ。食材は農薬や添加物を使うほど陰性になるので、無農薬、無添加のものを。さっぱりして食欲のないときにもぴったり。夏の養生は「腸をよくする」がポイントです。

 

色々な活動を通して冨田さんは「対立からは何も生まれない」「ジャッジをしない」という考え方に至っている。原発のこと、政治のこと、暮らしのこと、日々選択の連続だけれど、そのとき善悪とか正誤という基準で行動するのではなく、まず自分をよく見て、知ること。知識を仕入れたら試して自分に合うものを見つける。反対意見の人がいたら、相手のこともよく知って、対話する。すべて自分でやってきたことだから、言葉にとても説得力があるけれど、自分も勉強中なので鵜呑みにしないで反論や疑問も遠慮なくぶつけてほしい、その対話を通じてお互い学んで、納得したらそのことをまた誰かに伝えてあげたらいいと言う。

このお話会は、すぐに役立つ情報も満載だけど、それ以上に今までよりも広く深く世界を眺める視点を発見できたり、疑問が沸いたり、誰かにそのことを話してみたくなる、そんな対話が生まれる種みたいな場所。多種多様な参加者さんたちの話が聴けることも含めて、豊かです。 ストイックにならなくてもいい、うっかり不摂生しちゃったら、その分また養生すればいい。身体をよーく見ていれば、自分に合う養生がわかるはず。そう言われて、ゆるゆると続けていける気になりました。自分なりに、暦と養生を取り入れる暮らし、おすすめします。

 

・冨貴工房 冨田貴志さんのワークショップやイベントはこちらから

・スコップ・アンド・ホーさんのコラム「おいしい人々~スコップ・アンド・ホーのご縁つれづれ」もぜひご覧ください。

 

 


嫌いな家事ランキング

朝の情報番組をみていたら、苦手な家事についてのアンケートで8割の人が「アイロンがけ」と答えた、と言っていたので思わず画面に向かってウンウンうなずいた。みんなそうなのかーとなぜかほっとしたりして。私は家事の中ではダントツ1位でアイロンがけが嫌いです。

2番目は掃除機をかけることだったのだが、これは完全に掃除機をやめて、ほうきとちりとりにして解決した。うるさい音もしないし、隅っこのほこりもとれて気持ちいい。かえって好きになったくらい。アイロンもやらなくてすむようにと、自分の服はなるべく洗いっぱなしで着られるものを選んでいる。しかし夫のワイシャツはそうもいかず、しぶしぶやっていたのが、だんだん「自分のものは自分でかける」という状態に何気なく持ち込んでいる現在。家にいる時間は私のほうが長いんだし、上手にできるなら私担当でもやぶさかでない。というわけで、わりと真剣にアイロンがけ特集を見ているうちに、こんな本を買ったのを思い出した。



洗浄研究の専門家たちからも「せんたくの神様」と呼ばれる、『堀志津さんの せんたくの本』(婦人之友社)。洗濯だけでなく仕上げのアイロンにいたるまで、長年の知恵と努力と研究成果のすべてを駆使した心構え、道具、ハウツーを、かゆいところに手が届くように親切に公開してくださっている。昭和53年に作られた本なので、実践するのにやや時代を感じる部分はあるけれど(ちなみにこちらは古本屋さんで見つけたもので、『洗濯上手こつのコツ』(婦人之友社編集部)という本が1999年に出されています)ものをよく観察して、頭を働かせ手を動かして、大切に扱うという「ていねいな暮らし」の基本精神は古びず、むしろ今の時代にこそ必要なことが書かれている。

なのに。私は読んだだけで満足して放置してしまいました。実践なくして、変化なし。もういちど、こんどこそ。アイロンがけが楽しいと思える日がくるまで、すこしずつやってみよう。

 


ボロから生まれた宝物 ―― 「宮脇綾子の世界展」

 

たまたま手にした案内で、宮脇綾子さんという作家さんを初めて知った。「吊った干しえび」「さしみを取ったあとのカレイ」「切った玉ねぎ」・・・といった身近な暮らしの一コマをアプリケにした作品に心惹かれ、観に行ってみた。

 

今年は宮脇綾子さん生誕110周年だそうだ。90歳で亡くなられた宮脇さんが作品を作り始めたのは、40歳の頃。幼いころ父様の事業の失敗で裕福な暮らしから一転、家族は離散し幼いころから妹弟の母親代わりとなり、画家の宮脇晴さんと結婚してからも質素な生活の中3人の子を育て、戦争がはじまりさらに苦しい暮らしを続けた。厳格な姑に仕えて毎夜縫物を続けるうちに、それが一番好きな仕事になっていき、どんなちいさな端切れや糸や色褪せた紙などでも捨てることをせず大切にとっておいた。そこから生まれたのがアプリケだった。

モチーフは、目の前にあるものや自然のものだけ。カレイの腹のつるりとしたところ、死んだ鴨のずしっとした感じ、ネギの根っこのもじゃもじゃ、葉っぱや果物の瑞々しさ、枯れかけた花・・・・そんな台所の片隅に転がる風景が、お役御免になった小さな端切れ布や糸くずで、こんなにも生き生きと蘇ることに驚かされる。そして昔の布のもつ可愛らしさ、古びないデザイン性の高さや丈夫でふくよかな感じも、繰り返し見ても見ても見飽きない。布マニアにはたまらないだろうなと思う。

ほとんどの作品には、絶妙な位置に絶妙な色合いで「あ」というサインがアプリケされ、作品を一層生き生きと楽しいものにしている。これには綾子の「あ」、アプリケの「あ」、ありがとうの「あ」、あっと驚くの「あ」、という意味があるという。持って生まれたセンスも多分にあると思うけれど、ひごろの観察力、想像力、ものを大切にして、手間を惜しまないこと。その地道な積み重ねが、誰かの心にちいさくとも「あ」っという感動を与えるのだと気づかされる。

 

図録の巻末には、ご本人による『私のアプリケ』という文章が収録されており、読む者を力強く励ます温かく美しい言葉が並ぶ。

「私がこのアプリケを考え出しましたのは、昭和20年の終戦と同時で40歳のときでした。あの恐ろしい、やりきれない、つかれはてた気持ちのとき、このまま死んではつまらない、何かしてみたい、何か生きがいのあることをしたいと切実に思ったのです。あの殺風景な中で、ボロで出来上がった自分の作品を見て、すっかり有頂天になりました」

「画ごころはどなたにもあると言えます。またセンスというものはどなたでも、それぞれお持ちになっているはずです。それを引き出すのは、どなたでもなく貴女なのです。何事も挑戦してみることです。自信をお持ちください。時間をかけることです。あせってはいけません」

(図録より一部抜粋)

 

「宮脇綾子の世界展 ―布で描いたアプリケ芸術―」は6月14日(日)まで美術館「えき」KYOTOにて。

 


山活!

週末、先日のイベントで教わった里山活動に便乗させてもらって植物観察へ。山主でもあるマスターの30年来の愛車、三菱JEEPに乗っけてもらい、ワイルドな乗り心地を堪能しつつ久多に向かう。

久多は京都市左京区の最北端、同じ区内に自分が住んでいるのが不思議なほど、山深いところ。少し前までは雪が降っていたというから気候もずいぶん違う。風が涼しい。眼下に見える小川の底の小石まで見える澄んだ水。季節柄いたるところに咲いている山藤の美しさ。雲一つない空。めきめきと緑の葉っぱを繁らせる木々。溢れる生命力を感じる5月は、山歩きにぴったりの季節。暖かくなってくると動き出すマダニやヒルや蚊たちもまだそんなに活動してなさそうなのもありがたい。

平安時代以前から木材の供給地だったというこのあたり、杉だらけかと思っていた山に分け入ってみると何種類ものカエデやサクラ、ホオ、トチ、クルミ、ナナカマド、などさまざまな木がある。

足元にもたくさんの小さな可愛い草花や、エビネやオオイワカガミなど、珍しい高山植物もいろいろ。

拾った葉っぱと図鑑を照らし合わせながら教えてもらった植物の名前を、写真を撮りながら反復する。そのそばからなんだっけ?とびっくりするほどの速さで忘れていく。花が咲いたり、葉っぱがぐんぐんのびたりして、数週間前ともがらりと様子が変わっているのだそうだから、次回来たらまたすっかりわからなくなっているんだろうけれど、皆その繰り返しで反復して忘れては何年もかかって覚えていくんだよ、と言ってもらって安心した。

この日は我々初心者がいるので、ハードな山登りにならないように加減をしてくれたようだけれど、貴重な植物のまわりに鹿よけのネットを張るだけでも、普段使わない頭や筋肉を使って自分の体と脳味噌の錆び具合を感じた。皆どんどん周りにあるもので、作業をしていく。働くのも遊ぶのも一緒になった感じ。

「山活」している人は老若男女問わず、たくましくて物識りで、カッコいい人が多い。その場にあるものを使って働き、遊び、食べる知恵と体力があって、生き物として強そうだ。それにしても鳥の声、風のざわめきを聴きながら山で食べるご飯や、小川の水の美味しいこと。心からリフレッシュできました。

久多では八月に志古淵神社に歌と踊を奉納する花笠踊りがあるそう。地元の男性たちが和紙や植物を使って色とりどりに美しく作った花笠に蝋燭を灯し、夜の闇の中を歌い踊る姿が本当に美しいという。観てみたいと思った。

 


森のお手入れ-林業体験- に行ってきました

 

第15回「彩工房 暮らしと住まいのセミナー」は「森のお手入れ-林業体験-」。6年前、彩工房さんが北山の一角に植えた500本の杉の幼木が、雑草や茨のツルに負けたり大きな節が出来たりしないように行う下刈りと枝打ちの体験と、野外ごはんを楽しもう、という企画。朝から本降りと小雨をいったりきたりの不安定な空模様の中、たくさんの方が参加してくださった。 しばらく空の様子をみながら「京都北山杉の里総合センター」をお借りして、丸太を見学したり、山のお話を伺う。

北山杉は、細く長く滑らかで艶のある美しい木肌が特徴で、古くから京都の文化を担う美しい数寄屋づくりや茶室に用いられてきた、とても歴史と伝統のある貴重なブランド。植林後6~7年ごろから4年ごとに枝打ちを繰り返す。そのときとてもよく切れる鎌や鉈で枝をえぐるように一発で落し、節が残らないようにする。この伝統的な枝打ちは素人には大怪我の元なので、今回は大人も子供も初心者こぎりを使って行うことになった。

山主のお一人、山本さんは雨の日に一般の人が大勢で山に入るのは気が進まないなぁとしぶしぶ顔。「だいたい、どうやったって節があるのが杉やから。枝打ちして、綺麗にしてっていうても残るところは残るし、とってしまっても節の根っこは奥にあるしな。枝打ちせんでもべつに、どうってことない」・・・ええっ、そうなの!? と思いながらも「枝打ちするのは人間の都合」という言葉に、木の命を人間の都合でいただいていることへの謙虚な気持ちを感じた。その後も「ヒルは衣服の隙間から入ってきて吸い付かれて取るとバーッて血ぃが出るし、サルも嫌うっちゅうイバラがあって、もうそれは触ったらぜったいあかん。刺さってとれへんようになる」とますます皆をビビらせるようなことを言いながら、実際に山に入ると、みんなが怪我をしないように注意深く目を配りつつ、道具の使い方や枝の伐り方を丁寧に教えてくださる。

皆がだんだん要領をつかみ、夢中になって枝打ちを始めると、どんどん空間が開いて薄い光が差し込み地面が明るくなってきた。ぬかるんだ地面で泥だらけになっても、心は清々しい。薪割り教室のときも感じたけれど、子どもたちも一旦山に入るとりりしい顔になって、大人顔負けの根気と集中力を見せる。「みんなでやるとあっという間やな」と、主催の彩工房、森本さんも感動の面持ち。


枝打ちの途中、数人は料理班として別れ、おなじく山主の和田さんの庭をお借りして、ご飯の準備に入った。地元のお母さんたちが用意してくれた山盛りの山菜を、壊れたキャタピラを再利用したかまどで天ぷらにしたりバター焼きにしたり、ダッチオーブンで丸ごとチキンをつくったり、伏見の料理屋のマスターがいらしていたので鹿肉ステーキを焼いていただいたり、大きい釜でご飯を炊いたり・・・とワイルドで豪勢なお昼ご飯になった。

 

無事に雨も上がり、晴れ間すら見え始めて、食も進むし話も弾む。山活動をすでに行っている人たちと、まだまだこれから、という人たちとも少しずつ繋がりが生まれそうな雰囲気だった。山での活動は、経験者の知識が不可欠なのはもちろん、初心者も自主的に動けば動くほど楽しくなる。彩工房さん、山主さん、参加者さんたち、全員の力が集結して、楽しくて密度の濃い、貴重な時間を過ごすことができた。

 

帰ってから「森からの手紙」「森林を守る」「続・森林を守る」と、いままで書いていただいている森関連のコラムを読み返した。実際に森に行った後に読むと、なるほどと思う箇所が増える。いずれもわかりやすく林業のことをおしえてくれるコラムなので、少しでも関心のある方はぜひ読んでみてください。いままでとはすこし違う視点で山や森のことが見えてくると思います。

 


森かおるさんの食育講座 もうひとつのごはん やさしい・安心子どものおやつ

 

第14回彩工房 暮らしと住まいのセミナーは、毎回、帰ってすぐ作りたくなるレシピを伝授してくださるRelish 主宰、料理研究家の森かおるさんを講師に迎え、簡単で美味しく栄養価も高いおやつの紹介と、ご自身の子育て経験も踏まえたおやつやごはんのお話をしていただきました。


大人になるとおやつは息抜きや楽しみのためという要素が強いけれど、子どもにとっては大切な捕食の役割があるおやつ。できれば簡単にできて美味しく、栄養価も高くて安心なものを手づくりしよう。ということで、紹介してくださったのは、ヨーグルトを使ったフレンチトーストのトライフルやお豆腐で色を付けた白玉団子、じゃこナッツ昆布にパン耳カレーあられなど、子どもたちはもちろん大人も喜ぶリピート必須の美味しくて手軽なおやつばかり。

 

質疑応答コーナーでは、子育て真っ最中のお母さん方から飛び出すお悩みに明快に面白くわかりやすく、わからないことは一緒に考えながら率直に回答してくださる森さんの言葉ひとつひとつに、聞いているお母さんたちが笑顔になって、ちょっと安心したり、リラックスしたりしているのを感じました。日々初めてのことと向き合って、色々な知識を必要としている小さな子を持つお母さんたちのところには、いやでも膨大な情報が入ってくることと思います。とくに昨今の食の安全をとりまく問題には大人ですら敏感に成らざるを得ない状況。便利になるだけなったあげく、毎日のあたりまえの食事をバランスよく楽しむことがだんだん難しい時代になってきているのを感じます。そんな中で情報に振り回されず、神経質になりすぎず、金銭面と栄養面も考え、バランスのよい献立を考え、家族の健康を守るなんて、それだけでめちゃくちゃ大変!!でも何事もやりすぎ、頑張りすぎは続かない。無理なく手間なく美味しいものをささっとつくる方法を考えるのも楽しいよ、という森さんの実体験に基づくお話は、昔ならお隣にいていろいろ知恵を授けてくれる子育てベテランお母さんやおばあちゃんたちのような存在に近いのかもしれません。赤ちゃんや子どもたちの声に負けない森さんの大きくて元気のいい声と、聞いているだけでホッとして、勇気が湧いてくるようなお話とおやつパワーで会場全体が元気になりました。


彩工房では4月19日に植林教室 、Relishでは5月4日にパパと作るおやつ教室、天王山ファームフードマーケットが開催されます。