2022年4月18 の記事一覧

台処という教室

『チルチンびと』春 111号

 

『チルチンびと』春 111号(好評発売中)の特集「オーダーメイドキッチン」を読むうちに、幸田文『父  その死』(新潮社)のなかの「正月記」を思い出した。台処で、父  露伴から、厳しくしつけられる。たとえば、お重に詰めたものからの盛り付け方。ふきんの捌き、箸の扱い……。さらに、こんなことも。
〈  台処業務の出来不出来は、もっといやなことをお供に連れていた。四十何歳まで誰に抑制されるでもなく、自分次第に好きな生活をして殆ど家事・料理に疎く暮して来たらしいははが、この台処に立たされ、不平不満だらけでやりきれなかったのに、同情同感は深くなった。私はははよりもっとその憂鬱の感情をむきだしにしていた。けれどもははは、私がははをさしおいて家事一切をすることに誇りを害され、疎外され、無理に隠居させられたように誤解していたらしい。……〉

台処は、人生の教室だった。そして、料理のほかに、香り高い文学もここから生まれたのだ。