2017年3月9 の記事一覧

金沢文学散歩 2

金沢文学散歩


『チルチンびと』春号。〈特集・金沢 ーこのまちに生きる12人の女性たち〉にちなんで、ビブリオバトル・金沢篇 2


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S さん    ぼくは、モロ金沢。『金沢の不思議』(村松友視・中公文庫)。これは、すぐれた文学散歩だと思いますけど、ことに好きなのは、番外編・金沢の奥座敷。たとえば、「能登穴水湾にボラ待ち櫓在り」。これ、ボラ漁法なんですね。で、この穴水って、大相撲・遠藤の故郷ですよ。
〈ボラ待ち櫓の、生き物とも物体とも、現実とも虚構ともつかぬたたずまいに、心を奪われたのだった。ただ、その段階での私は、あれは何なのだろという疑問が頭にふくれ上がるばかりで、それが穴水を象徴するボラ待ち櫓であることすらも知らなかった。

U さん   私は、三島由紀夫『美しい星』(新潮文庫)。三島文学のなかの異色作と言われるこの作品。“ 金星人 ”  の舞台は金沢です。
〈北の国の空気の澄明、この陶器で名高い町の白い陶のようなひえびえとした清潔な頽廃、釉をかけた屋根瓦のおだやかな反映、すべてが古い城下町の、それ自体が時間の水底に沈殿したような姿にふさわしかった。彼はどうしても人間に接触することができなかった。〉
いいでしょう。また、こういう文章も。
〈金沢はまた星の町であった。四季を通じて空気は澄明で、ネオンに毒された香林坊の一角をのぞけば、町のどの軒先にも星はやさしい点滴のように光っていた。〉
  ー    しかし、まだまだ、挙げたい作品は数多く、金沢は文学の故郷ですね。
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『チルチンびと』春号は、3月11日発売です。お楽しみに。