2014年2月6 の記事一覧

「昇苑くみひも」さんの工房を訪問しました

「和の手ざわり」の題材を考えていて昨年HINAYAさんのテキスタイルマルシェで目にしたkmihimonoiroのリーフレットのことを思い出し、「昇苑くみひも」さんに連絡をしてみた。取材をお引き受けくださった営業課長の能勢将平さんのお話は、記事に載せ切れないところも個人的に興味深いものだったので、こちらで番外編を。

 

人類が二足歩行となり衣類を着て狩りを始めるころから、紐はその汎用性、柔軟性を生かして人間の生活に密着した道具となっていった。そのことは世界のいたるところで遺跡や文献などからも発見されているというけれど、日本はとくに世界の中でも「組紐」の技術が圧倒的に発展した国だそうだ。一番盛んに使われたのは戦国時代に武具を装着する紐、これは確実に激しい消耗品で、職人の数も増え、技術が向上した。西洋の甲冑などと比べると断然、軽くて動きやすそう。一刻を争う戦場で、紐を結わくタイプの武具をささっと着けられるのは、指先が器用な日本人ならではという気もするし、日本人と紐は相性がいいみたいだ。実用面を支えただけではなく、兜や鎧に「揚巻(あげまき)結び」という飾り紐を着けて縁起をかついだという。

 

目の前でその形を結んで見せてくださった

 

一見、同じ形に見えるけれど、上は「人型」、下は「入型」といって真ん中の結び目の方向が逆になっている。通常の社寺宮廷の儀式などでは入型を使うのだが、戦場では敵や矢が入ってくることを除ける意味をこめて、それと逆の人型にする。ひとつの武具に実用の紐と、形式的な紐が備わって、もう神頼みというより紐頼みの戦というかんじだ。

 

ある結び方教室に参加したとき聞いたという話も、とても興味深かった。組紐と「結ぶ」という行為は密接な関係にあるけれど、これと音の近い言葉に「ムスヒ(産霊)」があり、この「ムス」は「苔生(む)す」などと同じく「産まれる」という意味を持つ。これは神道の考え方で、なにもないところから万物が産まれ、またその命が繋がっていくことをも意味するそうだ。冠婚葬祭や神事ではしめ縄、水引、リボンなどの「結び目」はいまでも普通に使われているし、紐を結ぶ行為に命を讃えるとか、祈りの気持ちがこめられているのは、なんとなくわかる。話を聞きながら、最近参加したダンスのワークショップで、二人一組で紐の端と端を持ってたるませないように動くというのがあって、相手の空気を捕まえるのに紐がとても役に立ったのを思い出した。「組紐とダンスって似ている気がする」などと唐突なことを口走ったのだけれど、能勢さんは「あ、それはあとで見ていただく作業場で、紐を組む機械の動きがまさにダンスをしているような動きというか。もっとそれを感じられるもしれません」とすんなりと受けてくださる。組紐みたいに柔軟な方なのだ。

 

出していただいたお茶のコースターも、さすが組紐

 

 

こちらの工房は大きく工場、作業場、教室の3箇所に分かれている。工場には編み方の異なる30種類以上もの製紐機がずらりと並んで圧巻。この機械も結構な歳月を経ていて、ローラーと歯車とハンドルで動く。油を含んで鈍く光る鉄の味わいがいい。言われた通り、ダンスフロアをクルクルと回転するみたいに動く。真ん中に紐が集まって美しい組紐が生み出される様子は、生き物のようにもみえてくる。この機械を作る会社も少なくなって、なかなか修理に出せないので自分たちでメンテナンスも行うのだそうだ。機械任せでハイ、終わりではない。

機械にかける糸の下準備。糸巻き作業中

こちらも糸の下準備。糸を縒る作業中

右へ左へ回転しながら組まれる色とりどりの紐

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奥の小さな作業場では、小物を作る人、試作品を作る人、伝票管理をする人、集配の袋を提げて戻ってくる人、それぞれご担当作業の真っ最中で、朝一番忙しい時間帯にお邪魔してしまったのに、みなさん気持ちよく挨拶してくださり、作りかけの作品を見せてくださったりと温かい。

最後に教室にお邪魔した。昔ながらの手組み道具のカランコロンという木の軽やかな音がして、垂れた糸がカラフルで楽しそうに見えるけれど、設計図を見ると「???」読み解くのも簡単ではなさそう。

織機に似た高台。人が台の中央に座る

設計図・・・

可愛い丸型の台

 

 

 

 

 

 

 

 

この教室で技術を習得した地元近隣の住民の方々に「このデザインのものだったら○○さん」というようにその人の時間と技術に合わせてスケジュールを組んで仕事を分担し、材料の配布と出来上がった製品の回収に回る。「昇苑くみひも」さんの商売は、地域の方々の協力なしには成り立たないという。

 

春には組紐体験教室ができるように倉庫を改装準備中とのこと。ぜひ参加してみたいです。「昇苑くみひも」のみなさま、ありがとうございました!

「和の手ざわり」は、今月24日頃更新予定です。