morimori

花を見に行く

 上野へ花見に。 歩いていると、すぐ前を、若いふたり連れ。オトコか言った。「去年より、5日、満開が遅れたらしいね」オンナが言った。「それって、サク ラも自粛したのよ」
 

  不忍池の横の道を行くと、「十三や」という看板が目に入った。この、くし屋さんには、取材にうかがったことがある。
 

 — くしの材料はツゲである。それも、ウチでは、鹿児島産、開聞岳近くでとれるものを使う。それが、肌ざわり、弾力性、丈夫さで、断然すぐれている。その原木を 前に、どの部分から日本髪にさすくしを取るか、などと考える。ツゲのくし屋ほど、ていねいに切る人はいない。と、これは製材屋さんの話。それから板にした状態で、10年近く寝かせる。その板を、削る前に、20日間ほど、燻す。その燻すのも、ツゲのおが屑。ツゲのおが屑は、火力が安定していて、温度が平均して出る。だから、豆を煮るのにいいと、以前は、佃煮屋さんが、もらいにきたものだった。—
 

  ご主人の味のある話は、尽きることがなかった。 < この項つづく>
 

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kushi


サヨナラ夢婆

 昨年だったか。

 女性の声で電話があって
 「あなたのところは夢婆だけど、それを放馬して—-」というようなことを、言った。

 「エッ、私の知っているのは、麻婆豆腐くらいですよ」と、よくわからぬままに、間の抜けた返事をした。
 よくよく聞いてみると、ドコモのケイタイのサービスがmovaからFOMAというのに、やがて変わるから、それに対応しては、いかが、というのだった。

 わかったよ。

 で、一応、機種のネライを定めてアチコチの店へ行った。こんなことは、常識らしいが、A店は1万7千円、B店は1万2千円、C店は9千円、D店は0円(但しイロイロ条件つき)、E店は品切れ。

 —- 迷うし疲れるし。私の目指す品は、かのコンラングループのデザ インだということも、わかってきた。で、店員さんに
 「あの、コンランのありますかね?」と尋ねると
 「ハア? 混乱?」

 まあ、いいさ。

 そんなコンランの末、ついに今日、私はケイタイを手にしたのだ。当分、この放馬と暮らすことになるだろう。

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foma


御目出糖自身




山口瞳さんのエッセイ ゛手帳の余白゛ に、こういう箇所がある。

●女房の大好物は、銀座萬年堂の御目出糖、浅草紅梅堂のぶどう餅、紀文の人形焼きである。お正月に必ず御目出糖を持ってきてくれる人がいる。こんなことを書いたからといって催促しているわけではない。

こんなことを書くのはヤボな話だけれど、この ゛持ってきてくれる人゛ は、私である。いつのころからか、そうなった。16年前に山口瞳さんが亡くなってからも、ずっとつづいていた。その帰り、いつも、奥さまの治子さんは「瞳さんの分も長生きしてくださいね」 と私に言った。それは、毎年の楽しみだった。 

大震災のあと、3月19日の新聞の被災地や原発のニュースのかげに、ひっそり訃報が載った。—- 山口治子さん(作家故山口瞳氏の妻)13日死去。—- 悲しかった。 (morimori)