会いに行ける野菜 ~映画「よみがえりのレシピ」~

 

大量生産・大量消費の勢いに追いやられ、絶滅寸前の在来作物がこの映画の主役。 その命を繋ぎ、畳何畳分かの庭の片隅で自分たちの食べる分だけをひっそりと大切に育ててきた人々。 昔ながらの味にこだわり、その種を求めた地元の漬物屋さん。 その農法から食文化の保存と継承の研究活動を10年来続けている山形大学の江頭宏昌准教授。 生産者を訪ね歩き、野へ山へ入っては生えている芽でも根っこでもなんでもかじってしまう探究心の塊みたいな山形イタリアン「アル・ケッチャーノ」の奥田正行シェフ・・・誰が欠けても成立しない、山形在来作物の「よみがえり」の物語だ。

 

在来作物は、種選びからして熟練の技が必要で、育てるのにも大変に手間も時間もかかる。けれども風土に根ざし自然を大切にしながら、その土地の旨みを吸い込んできた地域の宝なのだ。  「風」を感じるような野菜――風土、そして風格のある、風流という言葉にも通じるような野菜――をつくりたいという、とある生産者の言葉が印象的だった。 子どもたちの瑞々しい感性にこそ、その「本物」さ加減が伝わるのか、見慣れない形状の野菜に臆することもなく、歓声をあげ、笑い声をあげながら種を植えたり調理実習をしたり。 大人だって、生産者に「これが、俺のカブ!?」と言わしめる、奥田シェフの魔法がかかった野菜のフルコース試食会! そんな課外授業なら、いますぐ新幹線に乗って受けに行きたくなる。

 

実際、わたしは芋煮会で伝承野菜を食べたのでわかる。 甚五右エ門芋は神々しい白い光を放って優しく上品な味のする、柔らかくて上品な里芋だった。勘次郎胡瓜は皮の硬さを全く感じず、水分をたっぷり含んだ爽やかな触感で、キュウリ嫌いのvigoも抵抗なく食べられた。 いずれも近所の大手スーパーでは決して手に入らない味わい。 その主催者の佐藤春樹さんもお祖父様と共に当然だが出演されていたので、心の中で「おぉ。出てる~」と騒いでしまった。 ほんわかした雰囲気はお会いしたときそのままだったが、あのときには見えなかった表情、育てるのも売るのも大変な在来作物を引き継いでいくことへの不安や相当な覚悟があったのだと知った。 また、焼き畑でのカブづくりのシーンでは木の勉強会で教わったばかりの植林作業を、映像とはいえ目の当たりにしてこういうことかと腑に落ちた。

 

渡辺智史監督は、「消費者が幅広い知識を求めて食を楽しめば、生産者も刺激を受けて農業が喜びに満ちたものになる」と言う。その気になれば「アル・ケッチャーノ」にも行けるし、佐藤さんの甚五右エ門芋だって芋煮会に行けば食べられる。でも探してみれば身近にも、それぞれの地域の宝を育てる人、その素材を生かしたお店を開く人、それらをマルシェやイベントを通じて広める人たちがいる。 「チルチンびと広場」もそういう方たちに次々と参加してもらっている。まだまだ数は少ないけれど、そんな幸運な出会いのひとつのきっかけになれたら嬉しい。

 

風土と命、生産者と消費者、みんな繋がっている。 何を食べるのか? を強く突きつけられるのではなく、自然にこんな食べ物を選びたいと思えるような、優しくて美しい映画です。 「よみがえりのレシピ」は、10月20日(土)から渋谷ユーロスペース、その後全国順次公開だそう。 たくさんの人に届きますように。

公式サイト http://y-recipe.net/