劇場で

永井荷風を描く作品

私はいま、ストリップ劇場にいる、のではない。ある映画館を劇場に仕立てて、映画の撮影の最中である。監督は愛川欣也さん。あの作家、永井荷風を描く作品。荷風といえば浅草、浅草といえばストリップ。今日はストリップの場面の撮影と聞き、やってきた。これを見ているうちに、浮かんできたのは、Iさんというストリッパーのことだ。
Iさんが、風俗雑誌に連載しているのを見つけ、面白く読んだ。会ってみると、ハスキーな声の男っぽい、そして繊細な神経のひとだった。独特の文章だった。ある女性作家がそれを読み、「あなたは、小説を書きなさい」といったという。それを聞いて、女性作家と彼女の対談を企画した。テーマは「ワイセツについて」だった。傑作な対談になった。しばらくして、Iさんは、趣味だった中国語を学ぶうち、上海へ行った。いま、どうしているだろう。撮影は、まだつづいている。

小芝居の裏木戸通る夜寒哉

というのは、荷風の句である。