安西水丸さんの想い出

『安西水丸 1本の水平線』展

『安西水丸 1本の水平線』展

 

『安西水丸1本の水平線』展(ノエビア銀座ギャラリー、8月23日まで)に行く。このギャラリーは、並木通り、最中の空也の少し先にある。お久しぶりです。あの線、色、形、文字、みんな懐かしい。安西さんの文章には、哀感が漂っていて、千倉、母親、海が出てくる場面が好きだ。たとえば、花畑でのある日。
………

  海が銀色に光っていたのだ。ぼくがいつも海水浴をしている入江も銀色だった。水平線にはカモメの大群が飛んでいた。
「お母さん、海が光ってるよ」
「何でしょう」
ぼくたちは花を摘む手をとめて海岸へと向かった。そこに見たのはイワシの大群だったのだ。ぼくは母といっしょに両手で掬うようにしてイワシを獲った。
 土地の人に聞くと、それは「イワシが上る」といった現象でめったにないことらしい。(『a  day  in  the  life』「花のある生活、きれいな言葉だ」   安西水丸著・風土社刊)