金沢の不思議

金沢の不思議

 

その“影笛 “ は、ひがし、にし、主計町という金沢の三茶屋街の中の、にしの茶屋街にある「美音」という料亭の女将が、師匠のあとを継ぐようにして残しているのだという。……

話は、この“影笛” に好奇心をそそられることから始まる。『中央公論』 で、村松友視さんの小説の連載が始まった。題名は『金沢の不思議』。金沢の、どこがそんなに不思議なの? という私の間の抜けた質問に、答えてくれた。前田利家について。どじょうの蒲焼きについて。そのどじょうのさき方、蒸し方について。『婦系図』の泉鏡花。自然派の徳田秋声。小説と詩の室生犀星。この金沢生まれの三人の作家の作風について。町に流れる川、住む人のけはい。…… たくさんの不思議を語って、つきることがない。

「ぼくは、エトランゼ。金沢の見物客だからね。住んでいる人とは、違う不思議が、見える」と、うれしそうに言った。そうか。私も “金沢の不思議” をしばらくは、見物して楽しむことにしよう。