牧野画伯、上洛!

前代未聞の3会場同時開催、という豪華さで、先月、牧野伊三夫氏の個展がやってきた。2月の日田ヤブクグリ活動以来の再会ということもありとても楽しみだった。

メリーゴーランド京都では装丁やライブペインティングなどで手掛けられた抽象画、nowakiでは絵本の挿絵や国内外の風景画、ガケ書房ではコラージュや版画、映像など。と、それぞれのお店にぴったりと似合う展示だった。牧野さんはいつも自然な感じで、呑むとさらに自然体になるし、ヤブクグリ『雲のうえ』、『飛騨』、『四月と十月』・・・それ以外にもいろいろと企画したり呑んだり、取材を受けたり、呑んだりして忙しいうえに、会えば「やあやあ」とほんわか気さくな人でつい忘れてしまうけれど、ほんものの画家だったのだ。面白げな、楽しげな絵でも淋しさや厳しさや孤独があんまり鋭くない感じで含まれていたり、ちょっとさみしい感じの風景画にも温かさが滲んでいたり、心の奥まで届く静かで深い迫力があって、観ているとしん、とした気持ちになる。「年月を経て、いろいろな変遷があって、この年齢になったから、今回みたいに三つの会場での展示ができた」と重みのある言葉をふわっと放つ牧野節も変わらず。

 

nowakiさんで「緑の散歩」という新作手拭い購入。なぜかこの日流行った相合傘サイン、いただきました♪

 

個展に合わせてイベントも盛りだくさん。nowakiでは、スナック林業と称し、日田からヤブクグリプロデューサーの江副直樹さんが、東京から『飛騨』編集長の佐野由佳さんが、大阪からマスナガデザインの増永明子さんが、多忙な中、各地から集まってのトークイベント。牧野さん直伝の特製ハイボールを呑みながら、林業の話、絵の話、会社員時代秘話などが飛び出した。徳正寺では、オクノ修さんのライブ。透明な、ちょっと哀しくて優しい歌声が洞穴みたいな空間に静かに響いて、外のしとしと雨までが一つの空間みたいで印象的だった。ガケ書房では似顔絵屋さん。

モグラスペースにて。洞穴のような空間で静かな対話みたいに、似顔絵ができあがっていきます

 

なかでも大きなイベントは、橙灯の坂崎紀子さん率いる小石川植物園スケッチ会の皆さんが、なんと東京から20名も参加、総勢30名でのスケッチ会。直前の雨の予報で吉田山が急遽動物園になったりしたけれど、結局雨に降られることもなく、舞台が動物園というのがかえってよかった。私はちょうど昼ご飯を終えたワオキツネザルの、満腹なときのオッサンらしい仕草と機敏で可愛い仕草のギャップから目がはなせなくなり、初めて使うパステルにも悪戦苦闘して、日田から届いた貴重なきこりめし弁当も5分ぐらいで食べ終えて4時間目いっぱい集中して描き続け、終わると放心状態になっていた。。

なつかしのきこりめし弁当、ふたたび

というわけで他の人が何をしているか全くわからなかったので、講評会で初めて他の人の絵をみる。「動物園なのに網に停まったカラス」「パステルカラーの観覧車、小高い場所から」「象の背中毛」「天皇植樹の松」「動いてる途中のオランウータン」・・・と、みなさん視点が自由。 個性炸裂で刺激的な絵がどんどん飛び出した。本名より何を描いたかで、今もその人の顔が思い出せる。 「これは滑稽派、こっちはグリグリ派」「これは動いているのを描こうとして、うまく描けないっていうのが出ていていいね」「小さい紙に描いているとうまくみえるときがあるから、大きいので描いてみたらいいよ」と、牧野さんの講評は愛とユーモアがこもってほのぼのしつつ核心を突いている。「時間内に仕上げなくていい。自分に似合った道具とペースで、自分らしく自由に」という、絵から人生にまで通じる、だいじなところを教えてくれるものだった。

目からウロコがぼろぼろおちる講評会でした

それにしてもよくこんなメンバーがそろったなぁ、と思うほど皆やさしくて面白くて気持ちのいい人々だったので、初参加でも居心地がよかった。牧野さんはその理由を「坂崎さんの人柄だよ。それと俺と紀子のコンビネーションだよ♪ 」と言い、坂崎さんは「画伯の人柄からくるものですよー。あと伊三夫と私のコンビネーションですか(笑」と陰で言い合っているのが可愛かった。

 

そこにいるだけで西から東から人が集まってくるわ、二週間近く朝から夜までフル活動でパワー落ちない牧野さんはもちろんだけれど、3会場の店主さん、とくにヤブクグリ・京都宣伝係として目まぐるしい働きぶりだったnowakiのきくちさんや、橙灯の坂崎さんはじめ周囲の方々の連携プレーもアメージング! 個展がお祭りみたいにいろんな形でどんどん盛り上がっていった。私はそれに便乗して新しい京都を発見したり、日田以来の嬉しい再会があったり、素敵な人々との出会いもあって、振り返ると夢のような日々。楽しんでばかりで申し訳なかったけど、ありがとうございました。

いつも、いろんな人や出来事を連れてきては楽しい何かを巻き起こす牧野画伯旋風。京都でも健在なのでした。