ハチミツを買いに古本屋へ

数年前、三十もだいぶ過ぎてやっと一人暮らしを始めた’あまちゃん’な私。行きつけの店なんかできたらいいなと思っていた。そんなとき友人に教えてもらった代々木八幡のカレーバー、zanzibar。京都出身の女主人は天然で別嬪で、絶妙なタイミングで激辛の発言とカレーを繰り出す。当時の常連さんも優しくておかしな人ばかりで、まもなく会社員を辞めて小さな編プロの丁稚奉公生活に入った私にとって、オアシスみたいな場所だった。猫が扉のところにいたりして。あのゆるーい空気が漂う雰囲気は、今思うとリトルキョウトだった。

その女主人に教えてもらった、ギャラリーみたいな素敵な美容室のお姉さんとnowakiさんに、異口同音に「コトバヨネットさんには、ぜひいってみて」と不思議な名前の古本屋さんを薦められた。二人のおすすめならばと行ってみると、住宅街の中にひっそりとある古いビルをうまく工夫して使っていて何か雰囲気がある。店内には古道具、家具、器、文具とか、変わった人形、柑橘類、野菜などいろいろ置いてある。何屋さんなのか?

 

人形は人気だそうで、メンバーがよく変わる。

 

店主の松本さんは帽子にメガネで飄飄とした風貌だけれど、すこし話しをし始めたら「あ、この人しゃべってくれるひと!」 とわかり、いまや近所のおばちゃんと井戸端会議をするような気分で訪ねている。衣・食・住にはかなりのこだわりがあると見受けられ、音楽に関してはレコードマニアの夫と私にはまるで内容がわからない話をしていたし、映画や美術にも造詣が深く、ではインドア派かと思えば、周辺のお店の人々と面白そうなイベントを次々に企てたり、本をつくったり、京都の空家情報にも詳しく、アクティブな感じ。いったい、何屋さんなのか?

 

高知のアハナベックさんの山野草リースで、秋めく店内。

 

同じビル内には、偶然にもここにアトリエを構えている 西淑さんや、珈琲屋さんmiepumpさんが居て、たまにほのぼのと現れてくれたりして楽しい。松本さんに教わった天土オルガニカさんの野菜は、味も見た目も芸術的だし、先日買った松山産の百花蜜は薫り高く美味(※ハチミツは現在売り切れ中)。もうじき檸檬が入るみたいでまた行かなくては。何屋さんかはともかく、何かがありそうだから行ってみる場所となっている。

 

松本さん曰く、周囲のお店とつながってイベントを企画したりするのが、これだけ盛んになってきたのは震災後が顕著だけれど、以前からこの辺りには「物々交換文化」がわりと生きているんだそう。お金は、なさすぎてもしんどいけど、ありすぎれば胡散臭さも漂う、ちょっと面倒なもの。その力を過信せずに知恵と感覚と経験をちゃんと使って生活に楽しさを生むことを体現している。あんまり自分やお店をカテゴライズしないで、いろんな役割を担っている。そうするとこんな風に自然にヒト・モノ・コトの循環が起こり始めるんだなと思う。 よくみたら、店名のところに“古書と生活/文化雑貨”屋さん、と書いてありました。