トルストイとパンの耳

トルストイ

 

土曜日の午後、ラジオを聞いていたら「食パンのまわりの部分は、耳というけれど、両端のところは、なんというんでしょうかね」という話が聞こえてきた。放送では、すぐにリスナーからの反応があり「あれは、ヘタとか表皮とか呼んでいます」というパン屋さんらしい人の答えが紹介された。「ヘタの横好き」というヘタな洒落が、私の頭に浮かんですぐに消えた。

 

それにしても「パンの耳」なんて、いつごろからいわれていたのだろう。昭和13年1月15日発行の『大トルストイ全集』12巻 (原久一郎訳・中央公論社)に、「悪魔の子分がパンの耳に対するヘマの償いをした話」という短編がある。それはこんな文章で始まっている。

 

—- ある貧乏な百姓が、ある朝早く、朝飯も食べずに、パンの耳を一片れ弁当に持って、野良へ耕作に出かけて行った。(本文は旧字旧カナです)—- これは、ロシアの民話に題材をとったもので、悪魔の子分が、そのパンの耳を盗むことから、酒の害へと話は及ぶのである。それはともかく、昭和13 年(1938)には、こんなふうに、普通に使われていたのだ。さて、パンの耳はロシア語で、フレープノイ=カローチキだと聞いた。これも、耳学問。