かわいい江戸絵画

「かわいい」の語源は、「恥ずかしい」という意味をもった中世からの言葉 「かほはゆし(顔映ゆし)」 なのだと、今回の展示の図録にあった。

 

たしかに「恥ずかしい」という感情は不意打ちのようにやってくるもので、その瞬間、人は無防備で隙だらけ。その人らしさや本音が思いっきり露出する・・・そんな姿を見られるのは本人にとっては死ぬほど恥ずかしくても、他人からみるとかわいらしかったりする。また、赤ちゃんのように無条件なかわいさもあれば、拙さや未熟さを揶揄したかわいい、もある。アイドルみたいな狙ったかわいさもあれば、鬼や化け物など、怖くて面妖なもの、ヘンテコで可笑しなものの中にふとかわいさが垣間見えることがある。「かわいい」の範囲は、広くて深い。「かわいい」の乱用っぷりを嘆く向きもあるけれど、それは乱用せずにはいられないほど、さまざまな心の動きを代弁してくれる言葉でもある証拠なのかも。

 

そんな「かわいい」表現が、最初に絵画に現れ始めたのは、江戸の頃。それまで絵画に求められていたものとはまったく違う「おかしみ」「たのしさ」「遊び心」を追求し、テキトーな線を書いているようでいて恐ろしく鋭い観察眼と描写力を感じる。中村芳中の「蝦蟇鉄拐図」や仙厓義梵の「猫に紙袋図」など、茶目っ気たっぷりで笑ってしまった。美術館の中でこれほど話し声や笑い声がよく聞こえるのも珍しかった。楽しい展示に心がほぐれました。図録も秀逸。おすすめです。

 

 

「春の江戸絵画まつり  かわいい江戸絵画」展は府中市美術館にて、5月6日(月・祝)まで。常設の牛島憲之記念館も素晴らしいです。