ゆく年、くる年

 

今年一年を振り返ると、仕事では新しい人や場所との出会いも多くて「吉」だったが、個人的には悲しい出来事が多くて「凶」だったかもしれない。でも、そんなときほど人の優しさや思いやりが身に沁みたり、今まで想像もしなかったことに思いを巡らせることができたり、見るもの触れるものをより深く、敏感に感じ取れたりする。落ち込んだり沈んだり後ろを向くことしかできない日々も、自分にとって必要な時間だったのだと思う。

この一年を通し、心の支えといったら大袈裟だけれど、何度も読んだのが詩人石垣りんさんの『ユーモアの鎖国』(ちくま文庫)という、エッセイ集。彼女は銀行を定年まで勤め上げたサラリーマンでもあった。女性として、会社員として、人間として日常を「超本音」で綴った。その言葉には一切のごまかしがなく、完全に自立していて、独り言のようなのに時代も国も越えてしまうほどの普遍性と鋭い洞察力があって、強い。本当の強さは、ちっとも押しつけがましくない。だから読むたびに慰められ励まされ、共感し、楽になれた。自分は自分でよい、ほかでもない自分が感じたことは、いいことも悪いことも大事にしたほうがいい。と言ってくれているような気がした。

 

新年

それは昨日に続く今日の上

日常というやや平坦な場所に

言葉が建てた素晴らしい家、

世界中の人の心が

何の疑いもなく引っ越して行きました。

(『ユーモアの鎖国』より抜粋)

 

みんなほんとうは、何の疑いもなく来年に引っ越していくわけでもない。反省や不安や未練なども抱えつつ、やっぱり来る年にすこしは期待して、希望をもって、年を越す。そんな人間らしい思いのごった煮すらも、すがすがしくなるりんさんの詩。その名のとおり凛と生きている人だから、そういう言葉になって出てくるのだろう。

泣いても笑っても、ゆく年、くる年。来年が、いい一年でありますように!