天丼物語

三宅菊子さん著書

 

三宅菊子さんが亡くなった。新聞の訃報欄に、『アンアン』などで活躍したライター、という紹介記事があった。私の手もとに、『セツ学校と不良少年少女たち』と『商売繁昌』という三宅さんの著書がある。『商売繁昌』は、彼女と阿奈井文彦さんと私の三人で雑誌に連載、それが一冊になったものである。ガンコでコリ症の彼女に、この゛職人噺゛の取材は、よく似合った。なかでも、木挽町の天ぷらや「天国」の主人の話の聞き書きは、傑作だった。

ある日、歌舞伎の楽屋に、天国から、天丼の出前をする。注文したのは、六代目(菊五郎)。あとから、海老がまっすぐ揚がっていなかった、と言ってくる。天国主人は、そこで—-。

—- そこであたしは説明した。海老をまっすぐに揚げるためには、包丁で腹のとこに切り込みを入れるんです。それやるとくるっと丸まらないで揚がるんだ。けど、歯ごたえがなくなる。あたしは言ってやりました。「日本一のあんたが食べるからこそ、包丁を入れずに、しゃきっとした歯ごたえに揚げたんだ、それがわからないようなら食べなくていいよッ」