雨に咲く

チルチンびと73号 花と緑と暮らす

 
  移植した紅葉の枝は、雨をふくんで、大きく垂れさがっていた。私はその風情に満足して、溜息をついた。ヤマボウシも同様だった。枝が垂れていて、そのために、満開の花が、こちらをむいている。私は、朝から酒が飲みたいような気分になった。
  何もしないでいる人生がある。また、国事に奔走して、紅葉の花(実はそれが花であるかどうかハッキリとは知らない)やヤマボウシの花の美しさに気がつかないでいる人生がある。そんなことをボンヤリと思っていた。(『旦那の意見』中公文庫から)

山口瞳さんは、かつて、こういうエッセイを書いた。『チルチンびと』73号を読んでいて、この文章を懐かしく思い出した。それはたぶん、今度の誌面が、庭、花、緑、脱原発の記事でいっぱいだったせいだろう。エッセイをまた読み返していると、雨に濡れたヤマボウシの白い花が、見えるような気がした。そして、国事に奔走しているだろう人の顔も、ついでに、思い浮かべたのだった。