西荻窪散歩・カツ丼篇

 『チルチンびと』夏号の取材に同行して、西荻窪界隈を歩いている。この日は、午前中は暖かかったのに、午後は俄か雨が降り、夕方、風が強く吹いて寒くなった。
 どうしたって、夕食はゲンキの出るものをと、北口の坂本屋へ行く。狙いは、カツ丼である。この店は、ラーメンあり、オムライスあり、ソース焼きそばありだけれど、人気は、カツ丼だ。かの美味評論家Y氏も、ここのカツ丼を絶賛、店に、「西荻窪の味 ! 東京の味 ! 坂本屋のカツ丼 !」という色紙を寄せている。時分時には、行列ができる。
 運よく空席があり、カツ丼(750円)を注文する。そして、近々、出産予定の仲間のKさんの話になった。Kさんは「こどもを産んだら、ビールとカツ丼だ ! 」と宣言したという。まるで労働者のような。以前、あるエッセイストに出産体験を聞いたとき、彼女は「潜水艦が、からだから出ていくようだった」と語ったことを思い出す。たしかに、出産は大仕事に違いない。それを終えたら、飲むぞ、食べるぞという気迫が十分に伝わってくる。
 運ばれてきた、素朴で、おいしいカツ丼を食べながら、無事の出産を祈り、少し、しんみりした。

カツ丼