歩け タイヤキくん

師走である。映像も活字も、1年の回顧ということになるのだけれど、今年は、3・11以降に尽きる。
あの日、大きな揺れが2回あり、どうやらそれが収まった5時過ぎ、私は、社を出た。神保町の交差点近くに行くと、「神田 達磨」というタイヤキ屋さんに、3人が並んでいるのが見えた。私は、その後ろにつき、タイヤキを3匹420円で買った。前の人が「3匹」といったので、マネをしたのである。それから、コンビニでお茶を買い、銀行でお金をおろし歩き始めた。
 黒い川のような帰宅者の帯は、黙々と続いていた。途中、公衆電話に並ぶ人と自転車を買い求める人と、公衆トイレの列だけが、流れに淀みをつくっていた。しかし、ビニールの袋のなかのタイヤキが、不思議な余裕と安心感をくれた。3匹は、1人で食べるには多すぎる。どこかで、誰かに差し上げてもいいと思った。
  しかし、そのまま袋を提げて、4時間後、自宅について、すっかり冷え込んだタイヤキを1匹、温めて食べた。残りをどうしたかは、思い出せない。

タイ焼き