コイの洗い

つりぼり

みんな、ミカン色の台に腰を下ろし、糸の先を見つめている。今日は、たまの休日なのか、何か屈託を抱えているのか、ご常連なのか。
市ヶ谷駅のプラットホーム、東京駅寄りから眺める、釣り堀の風景は、水面に季節の移り変わりを映して、楽しい。ここは、コイが釣れる。入場料金は、大人1時間690円。貸し竿1日100円。釣り餌80円から。平日朝9時半開場。年中無休。
「釣り堀はいいねえ」と言った客がいるという。「金持ちも貧乏人も、エライ人もエラクナイ人も、わけへだてなく魚はやってくる」
この釣り堀は、ずいぶん古くからある。以前、私が、この先にある大日本印刷を仕事で訪ねての帰り、ここを通りかかると、入り口付近に洗濯機が置いてあった。それは、その場に不釣り合いな奇妙なカンジだった。一緒に歩いていた作家が、「なんで、洗濯機があるのかねえ」と言った。「コイの洗い用ですよ」と私が答えると「ソレ、イタダキ ! 」と彼は笑った。