境野米子さんからの手紙

 

拝啓   

 

お元気ですか。

私は、早朝の恋太郎君との散歩も駆け足ですし、

今は落ち葉掃きに精を出しています。

福島は、澄み切った空気、紅葉が始まった山々、

可憐な赤紫色のリンドウや鮮やかな黄金色のツワブキなど、

以前と変わらぬ美しさです。でも、その空気、木々の葉や花、大地は、

ガイガーカウンターで測定すれば、ビービーと不気味な音を発し続け、

原発の爆発から7ヶ月たったというのに、数値は少しも下がりません。

匂いも色もない放射線が、大きな不安をかき立てています。

 

娘たち家族で賑わう連休や夏休みも、ジジ、ババだけ。

妊娠している娘も「お産は福島ではできない」となりました。

毎年孫たちにどっさり送った野菜ですが、畑は草だらけです。

フキノトウもツクシも摘まず、ドクダミやカキドオシも、

梅すら採らず、もう野草茶や漢方薬は作れないとあきらめました。

だから土手一面に広がった見事なサフランも摘みません。

近くの町では干し柿は出荷自粛。我が家でも干し柿は生産中止です。

この茅ぶきの古民家での暮らしの豊かさは、すべて失われました。

 

サフランが満開。今年は残念ですが、取りません。

サフランが満開。今年は残念ですが、採りません。

 

 

「なんてことを」

「誰が責任をとるの」

「原発は危険と言ってきたでしょ」

「事実を報道しなさいよ」

 

と怒りに燃えていた時、机の前の「主の祈り」を繰り返し読みました。

「われらに罪をおかすものを われらがゆるすごとく われらの罪をもゆるしたまえ」

温かな部屋、温水シャワートイレ、洗濯機、炊飯器、冷蔵庫、テレビ・・・

快適で便利な暮らしに満足していた自分の罪を一つ一つ数えると、

冷静になれました。人間が想像し、計画し、体験していた事を

はるかに越えたことが起こり、それでも私は生かされている、

そこに何か神の摂理があるように思えています。

 

16年前に難病になり人生が終わったと思った時、最大の恵、信仰を

用意してくださった神の計画に間違いがあるはずはありません。

茅ぶき屋根の修復、古民家の維持に大きなエネルギーを注いできた

私を哀れみ、神はその労苦から開放してくださったのかもしれない、

この世にあるものに心を奪われる道ではない方向を教えてくれて

いるのかもしれないと、少しワクワクもしてきました。

 

毎日、神の3つの命令、喜び、祈り、感謝する力を与えてくださいと、

神にしがみついています。多くの人たちに祈られていることを感じます。

その祈りの力を全部、あなたにも贈ります。  

 

敬具

 

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震災後もずっと、福島市で茅葺屋根の古民家暮らしを続けている「じぶんらしくコスメ」の

著者 境野米子さんから「福島のこと、原発のこと、少しでも多くの方につたわりますように」

とお便りをいただきました。

 

米子さんはご自身のブログでもずっと、放射性物質と健康について、福島の自然と暮らし

についてなど福島の今を綴られています。また、生活評論家・薬剤師・福島県教育委員会

委員として各地で「放射性物質と食生活」についての講演もされています。詳しくはこちら