サヨナラ ぬりえ美術館

ぬりえ美術館

 

東京・町屋にある「ぬりえ美術館」が、10月30日で閉館するという。昭和20年ころから、少女たちに親しまれてきたぬりえ文化を、伝えてきた。この「広場」でも、お仲間として、ご紹介してきた。さみしい。日本のぬりえの第一人者として、活躍した蔦谷喜一さんへの生前のインタビューを、掲載して、お別れとしたい。(中公新書『商売繁盛』から)

〈   ……  えーと、だいぶ前のことなので、そのたびに思いださないといけない…… 昭和15年、でしたかねえ、画の学生だったんですけど、アルバイトみたいのを探してまして、友人が描いてみないかと、自分にはあわない、君なら、あうと言われましてね。なんでしたっけねえ、藤娘なんかを描きましたかねえ。それ“ きいち”という名前じゃなくて、漱石の『虞美人草』から“ふじお”にしました。それで、戦争で、一時中止になって徴用に行ったりなんかして、戦争が終わりまして、また描きはじめたんです。昭和22年に“きいち”という本名で、こんどは、印刷もやって自分で自転車につけて、蔵前におろして歩きましたよ。「おとぎ絵」というタイトルをつけて、外国のおとぎ話の絵を描いたりいたしましてね。なにがよかったんだか、「きいち」、「きいち」と騒がれて、なにがよかったのかって、自分ではギモンなんですけどね。……〉        (つづく〉