『上を向いて歩こう』

 大震災のあと、『上を向いて歩こう』 が、たくさんの人にうたわれ、たくさんの人のこころをとらえたことに、驚く。さて、それとはべつに、永六輔さんは、自身のこんな゛ニガイ体験゛についても、語っている。

 — 近年、永さんは、せかせかと前傾姿勢で歩く度合いが、はげしくなった。そして、運悪く、転倒することも、増えた。それを直すための治療が始まった。大またでゆっくりと歩くように、というトレーニングが、病院で行われたとき、歩行訓練の担当者が提案した。「そうだ。『上を向いて歩こう』を、うたいながら、歩きましょう。この歌、ご存知ですよね?」 

 その担当者は、隣にいる男性が、歌の作詞者本人であることを、知らない。しかし、永さんは、言われるままに、『上を向いて歩こう』をうたいながら病院の廊下を歩いた。病院のなかには、永六輔さんであることを、知っているひとも多い。その情景にさまざまな視線が集まる。 — 哀しいような、痛ましいような、そして、少しおかしいような。

 ところで、永さんは、名字にちなんで、「エイ」のいろいろ — 絵葉書、アクセサリー、置物などなどの蒐集をしている。今日私は、近くの市場で「エイのヒレ」を見つけた。これは、これは。早速、残暑見舞いをかねて、さしあげる手配をしたところである。

エイヒレ