小さな畑のある本

小さな畑のある本

『チルチンびと』89号  「特集・小さな畑のある家」にちなんで、ビブリオ・バトルか、読書会か


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Aさん。「ええ、またか、と言われるでしょうが『父・こんなこと』(幸田  文・新潮文庫)。露伴から、暮らしのすべてについて教えられたのは、ご存知の通りですが、その幸田さんの文章。
〈畠もやらされた。およそ道具は皆素人向きな物では満足できなかった人であったから、鋤鍬は百姓なみの大きい重いものであった。〉と書くのです。さらに、〈「百姓の道具は力学的になかなかうまくできてる」などと、父は着流しの庭下駄で私の労働を見ながらその辺をゆらりゆらりと歩く。〉とも、書いています。やがて、豆を蒔き、菊をつくり…… その折々の描写が好きですね。
Eさん。やっぱり、人生の達人は違うんですよ、なにをやっても。『寺田寅彦 随筆集 第一巻』(小宮豊隆編・岩波文庫)のなかの「芝刈り」の章を読んでもね、そう思う。例えば ……。
青白い刃が垂直に平行して密生した芝の針葉の影に動くたびにザックザックと気持ちのいい音と手ごたえがした。葉は根もとを切られてもやはり隣どうしもたれ合って密生したままに直立している。その底をくぐって進んで行く鋏の律動につれてムクムクと動いていた。〉
そしてね、芝生を刈りながら、いろんなことを考える。自分は植木屋の賃銀を奪っているのではないか、とかね。観察が、いいんです。
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『チルチンびと』89号は、9月10日発売です。お楽しみに。