田中角栄論

『旦那の意見』(山口瞳・中公文庫)

 

田中角栄についての本が、ベストセラーの上位を占めている。書店でも『天才』(石原慎太郎・幻冬舎)、『田中角栄 100 の言葉』(宝島社)などが、目立つ。『天才』という角栄の生涯を書いた本の帯には、「 90 万部突破」とあった。それなら、ぜひこれも、読んでいただきたいと思うのが、『旦那の意見』(山口瞳・中公文庫)に収められている「下駄と背広・私小説的田中角栄論」だ。山口さんは、その文章のはじめのほうで、こんなふうに書いている。

〈私が敗戦の報を聞いたのは、八月十五日、鳥取の山中の小学校の教室(それが兵舎だった)のなかだったが、私が直観的に得たものは、これからどういう世の中になるかということはわからないが、今後は「才あって徳なき」人たちの世界になるだろうということだった。 ……  しかし、まあいいや。「どうせ生き永らえるに値しない」世の中になるのである。〉

まもなく、その八月十五日がやってくる。