「工悦邑」の夏

先週の木曜。仕事が終わってから出発して、東京から約8時間。
岡山に着いたのは丑三つ時もとっくに過ぎたころだった。
車のライトを消すともう真っ暗。ゴウェーーッ。ゴウェーーッ。
という重低音がするので「この音何?エンジン切ったのに?」
と聞くと、ウシガエルの鳴き声だという。カエルといっても
ゲコゲコとかケロケロなんてものじゃない。グエーーーッ。
ゾワっと不快な重低音があたりに不気味に響く。
正直、着いた瞬間に帰りたくなった…「それでもチルチンびとか」
とつっこまれる。ホントに情けないのですが虫も爬虫類も怖い。
窓にヤモリがいる。ヒャー。というと、能登育ちのvigoが
「ヤモリは家を守るんだから嫌うとバチが当たるんだからね。」
とおばあちゃんの知恵袋のようなことを言う。

前途多難かと思われた岡山滞在だが、翌朝の気持ち良さといったら…

晴れた空、済んだ空気、きらめくような若草色や濃い緑の木々。鳥の声。
マイナスイオン浴びまくりの世界なのだ。

 

今回の岡山・広島訪問では、タイルびとのご両親である
陶芸家の白石斉さんとイコン画家の白石孝子さんが暮らす
「工悦邑」という、芸術村に滞在させていただいた。
20年前からこちらで創作活動をしているそうだ。
すごいところだとは聞いていたけれども、想像を超えていた・・・
高速を降りてしばらく走り、住宅街を抜けて、山中に入っていく。
鬱蒼とした草のトンネル抜けたところにその村はある。
全国80か所もまわって「ここだ!」って思ったみたい。
どうすると「ここだ!」って思えるのだ??というほど
ものすごい山の中だ。初めは本当に何もなくて、
背の高さほどもある草をかきわけて進んでいたらしい。

お宅は、高い天井と独特のアーチを描く漆喰の壁。
玄関を開けると等身大のイコン画が迎えてくれる。ここはもう日本ではない。
リビングには陶器が並ぶ。ブルーを基調にした器や、タイルのような作品。
陶芸工房は別にあり、こちらは木造で風が気持ちよく抜ける。
昔制作したというレトロなタイルの一部分や、もう絶版になっているような画集、
100年前のペルシャのタイルなど、お宝が無造作に転がっている。
何時間でも過ごせそうな居心地のいい工房だった。

朝ごはんには自家製の味の濃い野菜のサラダをいただく。
シンプルにオリーブオイルとワインビネガーだけでとても美味しい。
朝ごはんを食べながら、例のウシガエルやヌートリアといった
戦時中持ち込まれた外来種がこのあたりの生態系を崩したり
植物を食べてしまう話という話を聞く。
やはりウシガエル、悪いヤツだった。。

他にも岡山のクラフトマン事情や伝統文化を教えていただいたり、
若手の方が新しい作家さんを発掘していくような気鋭のギャラリー
を紹介してくださったり、ルーラルカプリ農場さんにも
連れて行ってくださったりと、短いけれど濃い時間が過ごせた。
アーティストって全然歳をとらないんだな。と改めて思う。

同行してくださった福富建設の田林さん、瑞々しい好奇心で
一緒に周れて楽しかった。工房でろくろを回すイメトレ姿もなかなか
サマになっていて…新進気鋭陶芸家の卵が誕生する日も近そう!

いつもながらの東京時間を引きずるびっしり行程だったけれど、
広島でも岡山でもゆっくりと流れる時間を所々で過ごせたので、
あまり疲れを感じなかったどころか、なんだかまだまだ元気。

工悦邑のマイナスイオンを持ち帰ってきたのかもしれない。