暖かい冬のために〈前篇〉

ビブリオ・バトル

『チルチンびと』86号特集 「火から始まる冬支度」にちなんで、ビブリオ・バトル― 暖かい冬のために。前篇。

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Aさん。 高山なおみ『日々ごはん  12』(アノニマ・スタジオ)です。たとえば、12月のある日。〈朝ごはんは、「ルヴァン」のカンパーニュにゴーダチーズ(オレンジ色のけっこう熟成されたやつ)をのせて焼いた。これはまるで『ハイジ』の冬ごはん。ものすごーくおいしかった。〉冬ごはん、いいな。爽やかなエッセイの間にレシピ。たとえば、ある日の夜ごはんは、〈牡蠣酢、きりたんぽ鍋(比内地鶏、白滝、芹、ごぼう、長ねぎ、舞茸、きりたんぽ。〉と、読んで温まる。絶品。

Mさん。 鍋といえば、『江戸の味を食べたくなって』(池波正太郎・新潮文庫)。「二月、小鍋だて」の章。〈小鍋だてのよいところは、何でも簡単に、手ぎわよく、おいしく食べられることだ。そのかわり、食べるほうは一人か二人。三人となると、もはや気忙しい。〉そして、〈刺身にした後の鯛や白身の魚を強火で軽く焼き、豆腐やミツバと煮るのもよい。〉とある。ねっ、これも読んで温まる。こたえられませんよ。

D君。 鍋もいいですが、と『ヘミングウェイ短篇集 上』(谷口陸男編訳・岩波文庫)を取り出し、「二心ある大川」のページをを開く。〈彼は切株から斧で切り取った松の厚切りで火をたきつけた。その上に焼き網をかけ、四本の脚を靴で土の中に押しこむ。〉豆入りのポーク缶とスパゲティ缶をあけて、網にのせたフライパンにいれるんだね。食べる前に、男は、言うんだ。〈わかってるさ。こいつはまだ熱すぎる。〉これがいいんだ。

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『チルチンびと』86号   特集「火から始まる冬支度」は12月11日発売です。お楽しみに。