屋久島 田畑を巡る旅 その3

3日目は4人で白谷雲水峡へ。サンダルでも登れるような階段が延々と組まれた順路を歩き、島へ来て初めての観光客気分になる。途方もない大きさの岩がごろごろ転がる渓谷、岩の上には様々な種類の木が宿り、樹齢三千年の弥生杉は太古の時を感じさせた。「もう木だったのか岩だったのだったのか、、わからなくなってるのでは」と敦子さんが言い、笑ってしまったが本当にそんなかんじだった。ここで三千年も動かずじっとして、変わっていく人間の姿もずっと見てきた屋久杉と話が出来るなら、何を聞いてみようかと妄想したりした。

午後、本武さんと待ち合わせて、白川茶園さんに連れて行っていただいた。見晴らしのいい山間で、有機栽培の茶畑を営む白川満秀さんは、ここの気候と風土に合わせ栽培から発酵まですべてにこだわったお茶づくりをされている。

いかにしてお茶の美味しさが生まれるか、どんどん言葉が飛び出して、お茶が大好きなのが全身から伝わってくる。いかにも九州男児な熱血漢の白川さんが、にこにこと言葉少なにお茶を淹れ続けてくださる、チャーミングな奥様のことを「この人の感覚は確かなんだ」とちょっと可愛い顔になっておっしゃる。絶妙な二人三脚で歩んでこられた仲睦まじいお二人。次々に淹れていただいたお茶は、冷たく氷出しでいただく白葉茶の甘みも、自家製の材料を使ったたんかん、シナモンなどフレーバーティーも、ほのかで優しい。どれもすっきりと身を清めてくれるような上品な味わいだった。

 

その後、日本一のウミガメ産卵地で有名な永田というところまで少しドライブして、これでほぼ島を一周したことになった。屋久島は海底火山によってできた大きな岩だそう。岩の上の薄い土の層に苔や微生物の状態が繁殖しできた島なのだった。蜜柑の木も土があまりない岩山で美味しく育ち、岩をつたってくる水もそのミネラルでやわらかく美味しくなる。あの大きな屋久杉を支えているのも岩だった。その循環に人間は本来そんなに必要なくて、割り込んでおすそわけをもらいながら生きているのだから、その循環を助けこそすれ壊してどうする。という話なのだ。昔は皆が、そのことをよーくわかってたんだろうな、と思う。

 

この日の宿は一棟貸しの「おわんどの家」。チェックインの前にふらりと寄った一湊の海水浴場で、海の中からぐんぐん近づいてくる人がいると思ったら、本武さんの友人のあやさんだった。陽に焼けて手足がグーンと長くてハスキーな声のかっこいいお姉さん。上から下まで島の人みたいだったが、東京から2年前に越してきたという。ピアニストのあやさんは、ライブなどでちょこちょこ京都にもいたそうで、敦子さんと共通の友人までいた。旅には奇遇な出会いがつきものだけど、これには驚いた。家も近いしということで、夜あやさんが息子さんを連れやってきてくれて、とても楽しい晩御飯になった。また別れがたくなり、翌朝出発前にさよならを言いに寄る。再会を約束した。

 

お昼まで少し時間があったので、地元の人々御用達の尾の間温泉で非常に熱い湯にちょっと浸かってさっぱりした。外の足湯でぼんやりしていたら凍らせたポンカンジュースを持って本武さんが迎えに来てくれた。沁みる。この嬉しい気配りよ。おいしい食べ物が育つわけだ。最後にお昼を食べながら最終インタビューを終了し、地元の酒屋さんでお土産用の焼酎を試飲してフワフワしていたら、あっというまに出発ぎりぎりの時間になってしまった。空港の職員さんに促され猛ダッシュ。急にアタフタモードになる私たちを、落ち着いた雰囲気で見守りながら握手してくれた本武さんだった。ちゃんとしたお別れの言葉も言えぬまま、ゲートに入った。去り際はあっけなかったけれど、持ち帰ったものは大きくて、この旅が何かのはじまりになるように思えた。

 

最後に、旅のきっかけをくださった井崎敦子さんと本武秀一さん、ご一緒してくださった秋山ミヤビさん、砂本有紀子さん、それから毎日気持ちのいい晴れっぷりで迎えてくれた屋久島の大自然も含め、出会えたすべての皆様、本当にありがとうございました。

 

コラム「おいしい人々~スコップアンドホーのご縁つれづれ vol2. 屋久島へ行ってきました」本日アップです!ぜひ、お読みください。

 

敦子さん、本武さんを撮る。