春の香りのする茶会

みたてさんで展示中の、全日根さんの器を使った茶会に伺いました。

 

全日根さんの作品は川口美術さんで拝見したのが始まりで、窯見学にもご一緒させていただいたり、その後も数回の回顧展に伺い、観るたびに新たな魅力を発見して惹きこまれていく作家さんです。今回のみたてさんでは花入れと人形を中心に、また全さんの未知なる魅力が引き出された素晴らしい展示をされています(~2月15日まで)。

会期中のイベントとして陶々舎の中山福太朗さんが選んだお抹茶椀で、川口美術の川口滋郎さんのお話を伺い、みたてさんが花入れにお花を活けるのを眺めるという趣向の一日限りのお茶会。全さんの器とお茶とお花を存分に楽しめて、ド素人の私でも冷や汗をかかずにすむような、気楽で遊び心たっぷりのお茶席をつくっていただきました。

 

待合では梅の枝にお湯を注いで、ふんわりと梅の爽やかな香りたつ白湯をいただきつつ春の山野草を眺めます。お茶席に入ると、まずお菓子が配られますが、その前に今回は、楊枝用になんと本物の黒文字の枝を自分で伐ります。枝を持って帰ってもいいということで少し大きめに。本日のお茶菓子はふきのとうの入ったお味噌を包んだもっちりとしたクレープのようで、フキの香りが漂う季節感あふれるもの。

お抹茶椀は、一人一人全然違うもので、骨董のようにも、モダンなものにも見え、どこかしら可愛らしくお茶目で、空にも海にも大陸の景色のようでもあり、アジアやアフリカの香りがしたり、描かれた生き物たちが踊り出しそうであったり。どれも亡くなられたとは未だ思えない躍動感が作品に宿っています。飯椀かお抹茶椀か、どちらだろう?と少し考えるような形のものもあり、その形式にこだわらない自由な解釈や豊かな表情に惹きつけられ、どれを持ってこようか迷った。とお話されていた福太朗さんも、普段の暮らしにもっとお茶を取り入れたいと、自由なお茶席を提案し続けている方。品が良いのに少しとぼけた味わいがあって、使うこちらを緊張させない全さんの器と、とても相性がいいのも納得です。

 

 

長年、全さんとお付き合いのある川口さんはもちろん、生前には面識のなかった福太朗さんとみたてさんからも、器を通して感じられる全さん像が様々に浮かび上がり、それを聞きながらいまだ星山窯にいらっしゃって作品が生まれ続けているような気がしました。誰かを偲ぶことにも様々な形があるけれど、こうしてその人を愛する人たちとともに魅力を語り継ぐことは、ほんとうに心慰められるものがありました。

ひと足早く、爽やかな春を感じるような朝の豊かな時間を、楽しませていただきました。