家具から生まれる、豊かな暮らし

 

第13回の彩工房 暮らしと住まいのセミナー「山の家具工房」田路宏一さんを迎えて、家具作りや家具の選び方、お手入れ方法、家具との暮らしなど、多方面からの家具のお話をうかがった。

田路さんは京都市旧京北町というところで無垢の木を使って家具や木の道具を作られている。庭には大きな栗の木があり、大きなヤギが3匹いて、工場跡地のような広い建物の中に工房と自宅があり、自宅内装はご自身の手による木のぬくもりが感じられるとてもすてきなお住まい。仕事の合間を縫って少しずつ変化しながら完成中だ。工房には木をストックしたり加工するための場所と道具が揃っていて、たいていのことはお願いすればできるような理想的な環境で制作をされている。(詳しくは田路さんのブログから)

そんな田路さんがつくる家具は、洗練されたフォルムを持ちながら、触ってみると柔らかく、素朴さ、強さ、温かさが感じられて、どれも使ってみたくなる。椅子の心地のよさと扱いやすい軽さ、テーブルの角の部分、足の部分のカーブや天板の裏に設置された反り止めなど匠の技が目立たぬようさりげなく生かされていて、見えないところまで美しく機能的。眺めているだけで家具が本来持つ意味を教えてくれるような作りになっている。木は生き物なので、必ずしも人間の思い通りにはならない、そのことを十分理解し木の命に尊敬を払った家具作りは、手間や時間がうんとかかるけれど、その木が本来持つ強さ、しなやかさや色合い、木目の美しさ、など性質が生かされ長持ちする。

それは木の家づくりとまったく同じ、と彩工房の森本さんも頷く。速さや安さを求める世の中の流れは止められないとしても、置いてきてしまったものは大きい。無垢の木の家や家具は使うほどに味わいと美しさが出て、壊れても直して使えるし、暮らし方の変化に合わせてリメイクやリフォームがしやすい。大切に育てていくという楽しみ方がある。まずはお気に入りの家具をひとつ探して使ってみることから、無垢の木のある生活をはじめてみるのがいいかもしれない。お二人からはそんな共通の課題や提案が出ていた。それもハードルが高そうだったら、器など生活雑貨から取り入れて、お手入れの仕方や木の特性を知るのも楽しいと思う。

修行時代にシェーカー家具の師匠のところで教わった、美しいチェストをひとつ持ち、その中に納まるものだけで生活していく、という話は田路さんにとても影響を与えたという。家具作りだけでなく、そこから生まれるシンプルな暮らし方を教わったことは、いまの田路さんご一家の暮らし方とご自身の家具作りに繋がっているそうだ。それでも、独立したてのころは、自分の好きなものを作っていていいのか、お客さんの希望はなんでも叶えてあげるべきなのじゃないかと迷うこともあった。いまは自分の作りたいものがわかってきた。信念を持って好きなものを作っているとそれが形に表れ、しっかり言葉にできるようになるし、相手にも伝わる。大切な家具ひとつ持って、そこから始まる暮らしがあってもいい。というお話が心に残った。