「火のある時間」ビブリオ・バトル

「火のある時間」ビブリオ・バトル

『チルチンびと』の次号は「火のある時間」が、テーマだよ。じゃ、それにちなんだビブリオ・バトルはどうかな。で、集まった6人。

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Aさん、最近読んだ『優雅なのかどうか、  わからない』(松家仁之・マガジンハウス)が、オススメ。
〈佳奈は新聞の一ページ分をちぎって丸め、それを四つ、レンガ台の真ん中にのせた。新聞のボールをまたいで囲うように、薪を井桁に組んでゆく。二本の薪が、たがいちがいに三段かさなった。
「マッチありますか?」〉
離婚をした。…… という書き出しで始まる。男とその周囲の女との物語ですが、キレイな文章でキモチがいい。後半、不具合の暖炉の描写がこまかく、そこが、好きなんですよ。

Yさん、ちょっと前のですが『日日雑記』(武田百合子・中公文庫)。銭湯の煙突掃除屋さんの話が、あるんです。
〈菰藁を体全体に幾重にも巻きつけた掃除屋さんは、二十三メートルの煙突のてっぺんに上り、わが身を掃除ブラシにして筒の中の煤をこそげ落しながら下降する。煙突一本四十分かかる。一本九千円。銭湯では一年に一回、煙突掃除をするのだそうだ。〉
ある日、テレビで見たという職人の話、百合子さんの筆にかかると、いいな。

Hくん、『ヘミングウェイ全短編 1』(高見浩訳・新潮文庫)の「われらの時代」から。
〈松の切株を斧で割って何本か薪をこしらえると、彼はそれで火を焚いた。その火の上にグリルを据え、四本の脚をブーツで踏んで地中にめりこませる。それから、炎の揺れるグリルにフライパンをのせた。腹がますますへってきた。豆とスパゲッティが温まってきた。〉
ね、男っていうカンジでしょう。いいんだ、これ。

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(つづく)