ひこ遠足のこと

 

アトリエひこは、ダウン症と重い心臓疾患をもつアーティスト・ひこくんのお母さんが、1994年に自宅でスタートし、ひこくんと同じように長時間の作業や活動が困難な仲間たちが集まって絵を描いたり、遠足にいったりする自主運営のアトリエ。縁あって、こちらの遠足に何度か参加させてもらっている。

ひこ遠足は、本当は絵の先生だけどみんなの保護者でもあり友人でもある史子せんせい、81歳ながら往復の運転をしてくれ、釣りや山菜摘みを教えてくれ、なんでも自作してしまう武爺せんせい、好奇心が旺盛で明るくストレートなひこくん、ひこ母さん、寡黙な釣り好きのなかくん、伝統、美、紙と文字にこだわるくにちゃん、慈愛に満ちた笑顔の癒し系せっちゃん、おしゃれお嬢様のかよちゃん、という個性豊かなメンバーが入れ替わりながら、午後から夕方の数時間、毎週どこかへ出かける。大阪近郊中心に、京都や奈良や和歌山などいろいろな場所で、お花見や、山菜天ぷらパーティーや、野点をしたり紙ヒコーキとばしたり。彼らは先天的な身体の障害もあり、山道を歩いたり言葉のやりとりが難しいときもあるれど、二人のせんせいが、それぞれの心身のコンディションを本当によくわかっているからみんな安心して個性全開で過ごしている。それぞれやりたいことを素直にやって、かなりマイペースだけどやさしくて、居心地がいい。それは作るものにもそのまま表れている。

世間は狭いもので、ある日奇遇にも、史子せんせいと田中茂雄さん がお知り合いだとわかった。ちょうど田中さんのところでなかくんの作ったものを焼いていただいたというので、先週作品を受け取りがてらgallery其無が遠足のコースになった。明日香村に溶け込み、田中さんの手仕事がすみずみに生かされていて、人間本来の暮らしを思い出すような素敵なところだった。

田中さん邸は『チルチンびと 80号』にも8ページにわたって掲載されていますので、ぜひご覧ください。記事は「7代先につなげたい、先人の心」 の近藤夏織子さんによるもの。風土と歴史に根差した田中さんの暮らしぶりが、近藤さんならではの視点で書かれています。チルチンびと広場からもこちらで冒頭部分を ご覧いただけます。

 

 

くつろぐくにちゃん

 

 

焼きあがったなかくんの作品は、とても面白かった。

 

予想のつかないかたち

 

 

ひこ画伯はいまアトリエで、田中さん邸で別れ際まで離れがたそうに撫でていたグレーの猫のことを描いているらしい。